認知症の人と家族の会が12日、国会で審議が本格化する介護保険法などの改正案をめぐり緊急要望書を提出したが、その内容は改正法案の一部に異議を唱えるものとなっている。

同会が異議を唱えたのは、介護ニーズの縮小やサービスの担い手の不足などが顕著な中山間・人口減少地域を対象に、事業所・施設の人員配置基準の緩和などを認める新たなスキームを設けることについて。
認知症の人と家族の会緊急要望書提出
新たなスキームとは、「基準該当」や「離島相当」といった既存の「特例介護サービス」の中に、新たな類型として「特定地域サービス」を創設するというもの。国が一定の基準を示しつつ、都道府県が市町村の意向を聞いて対象となる「特定地域」を定める仕組みとする。改正案では2027年度からの施行とした。

都道府県が定める「特定地域」では、事業所・施設の管理者や専門職らの人員配置基準、常勤・専従要件、夜勤要件などの緩和が認められる。あわせて、訪問介護事業所の経営の安定性・予見性を高める観点から、現行の出来高払いだけでなく包括評価(定額報酬)も選択可能となる。

これによってそれぞれの実情に合ったより効率的な体制を構築し、中山間・人口減少地域でもサービスを維持していけるようにすることが狙い。

だが特定地域に住む介護サービス利用者の立場から見ると、他の地域より人員配置が少ない事業所からサービスを受けることになるため、今までよりサービスの質が下がり、それによって生ずる不便や不満を我慢しながらサービス利用をしなければならないのではないかと不安にあるのは当然だ。

特定地域では人員配置緩和のほか、訪問介護について、現行の出来高払いだけではなく、月額定額報酬を選択できるように改正される。

特定地域は、訪問介護事業者から見ると利用者が少なく移動コスト等の支出が多くなり、コスパが非常に悪いサービスとなっている。そうした地域から撤退する事業所が増えることで、制度あってサービスなしという状態にならないように、より収益が得られる介護報酬算定方式を選択できるようにするものだ。

それは利用者からみると今までより自己負担支出自己負担が増えるということになる。人員配置緩和により品質が劣る可能性があるサービスを、今以上の自己負担支出で利用するという矛盾と向き合うことにもなりかねない。

認知症の人と家族の会の要望書はそうした不安を訴えたものであり、「どこで暮らしていても等しいサービスを保障するという介護保険の理念がなし崩しになる恐れがある。」と問題を提起。「特定地域」を設けて事業所・施設の職員を減らすのではなく、必要な人材を確保するための施策に一段と力を注ぐことで、全国の高齢者への公平・平等な給付を維持すべきだと訴えた。

これに対し上野賢厚労相は15日の衆議院・厚労委員会で、「サービスの質の確保に配慮することが重要」と強調したうえで、「事業所間の連携やICT機器の活用などを前提としつつ、利用者へのケアの質に影響がない範囲で行うことが必要」との意向を示した。

だがそれは介護実務の場を知らない人の戯言のように聴こえる。なぜなら事業所間の連携やICT機器の活用などによって、介護実務が省力化されているという事実は証明されていないからだ。

介護事業においても、ICT機器やAIによって事務作業の省力化は劇的に進んでいる。しかしそれは介護実務=利用者ケアに波及していないのが本当のところではないだろうか。

だからといって、認知症の人と家族の会が要望するような、「必要な人材を確保するための施策」がとれるかどうかというと、生産年齢人口が減り続け、外国人材の活用にも限界が生じている現状では、それも難しい。

そのため僕は、中山間地対策は間違っていないかの中で、思い切った地域再編という政策に舵を取るべきであると提言しているところだ。

次期改正では今回の要望書の存在に関わらず、特定地域の介護基盤を維持するために事業所・施設の人員配置基準緩和は行われるだろう。

そこではどんなに事業所間の連携やICT機器の活用などを前提としたとしても、今以上の良いサービスは受けられないことだけは覚悟しなければならない。

良いサービスを受けたい要介護者は、良いサービスを選択できる地域への住み替えが必要とされるだろう。
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