介護保険制度改正を論ずる社保審・介護保険部会における次期改正の、「主な検討事項について」として挙げられている1番目は、「地域包括ケアシステムの推進」である。
このテーマは改正の度に繰り返し挙げられており、ある意味お馴染みといったところでもある。
それは要介護状態になった人が、住み慣れた地域で必要な支援を受けながら暮らし続けられることを目的として、地域事情に即した支援体制を構築しようとするものである。
だがそれは同時に、心身の状態に応じた住み替えを奨励するシステムでもある。住み慣れた地域に暮らし続けられることとは、住み慣れた自宅で暮らし続けられることとイコールではないのである。

当然そこでは自宅から介護保険施設や居住系施設(サ高住・GH・有料老人ホーム等)へ住み替える人も出てくるだろう。
だが同じ地域であるといっても、住み慣れた自宅を施設等は大きな差がある。高齢者及び要介護者は、決して環境変化に弱いなどは思わないが、そうであったとしても自宅に住むことをあきらめて、介護施設等に住み替えることは大きなストレスにもつながるだろう。
新たな住み替え場所であるそれらの施設では、強いられた共同生活(※集団論で言えば、そこは集団生活の場ではない)によって不自由を感じたり、思うような暮らしが送れないと感じる人もいるだろう。
その時、それらの人が環境に馴染んで、新たな生活場所で意欲的に豊かに暮らすことができるために必要なことは、決して近代的な住環境とは限らず、温かい介護支援者の心配りであったりする。
だがそこで間違ってはならないことがある。
施設関係者は、決して施設が自宅より豊かな暮らしを送ることができる場であると利用者を説得する必要はない。もっと謙虚に、施設は自宅には勝てないことは多々あるけれど、それでも私たちが家族に替わって、家族に勝てないまでも必要な支援の手を指し延ばしますよという姿勢を示すことが大事だ。
住み慣れた自宅での暮らしをあきらめなければならなかった人の悔しさや哀しさ、劣等感にも近いそれらの気持ちをしっかり受け止めたうえで、新たな環境に適応できるように手を差し伸べなければならない。
ICT環境やAI搭載ロボットなど設備も完備された近代的な住環境が、住み替えを余儀なくされた人の支えになるわけではないのだ。それらの住環境は、住み替えた人々の心が平穏になってこそ初めて、それらの人にとっての利便性につながるのである。
しかし設備が人の心平穏にしてくれるわけではない。特に何らかの介護支援を必要とする人にとって、他者の温もりが伝わらない場所は、不安と不満と不幸しか感じられない場所になってしまう。
何らかの事情で自宅での暮らしをあきらめた人々にとって、自宅で暮らし続けることと同じように豊かな暮らしを送るためには何が求められているのかを考え、その方法論・実践論を見つけて出していくという対人援助者の姿勢が必要だ。
それが欠けている場所はいかなる近代的設備を配した豪華できらびやかな住環境であったとしても、そこに居る人々にとっては冷たいブラックボックスであり、地域の中で孤立を深める密室でしかなくなることを、我々は対人援助のプロとして肝に銘じなければならない。
※株式会社マイナビさんが運営するポータルサイト、「メディカルサポネット」の連載、「菊地雅洋の一心精進・激動時代の介護経営」の第7回配信記事が6/20にアップされました。

今回のテーマは、「骨太の方針2025に明記された介護報酬引き上げ方針を読み解く」です。下記目次を参照してください。

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