僕は今から10年前に社会福祉法人の総合施設長の職を退いて、現在フリーランスの立場で仕事をしている。

しかし社福退職後、即フリーランスに転身したわけではない。社福退職と同時に千歳市にある医療法人(精神科医療機関)の経営する老健施設で1年間だけ事務次長として働いた経験がある。

そのように短期間しか就労しなかった理由は、就職当初から1年限りを条件に働いていたからである。

それまで福祉系サービスの経営・管理・実務の経験しかなかった僕は、一度医療系サービスの経験を経ておきたいという考えがあった。その為もともと長く務める気持ちはなく、就労先にもその気持ちを伝えたうえで、それでも是非働いてほしいということで老健施設に勤めることになった。

おかげでその1年の間に、医者がいかに経営センスがないのかということを知った。

同時に、精神科看護職員の人権意識のハードルが低いこともよく分かった・・・なぜならその老健は精神科の看護経験がある看護師がトップに立って介護の場を仕切っていたが、そこでは利用者の権利侵害・人権無視がいとも簡単に行われていたからである。

よってその1年の経験が反面教師として現在の仕事の身にもなっている。

ところでその際に働いたていた老健は、「基本型老健」に分類される施設で、在宅復帰率が高くはなく、特養への入所待機者なども数多く入所していた。

今年度の介護報酬改定では、そうした基本型老健の報酬単価が厳しく抑制された。

全体の改定率がプラス1.59%である中で、経営実態調査の結果が初めて単年度赤字に転落した特養や老健の報酬は、平均アップ率より高く設定されたものの、老健については在宅強化型老健の要介護3で+4.20%とされているが、基本型老健の要介護3では+0.85%でしかなかった。これは特養の要介護3が+2.80%であったことと比較しても極めて低い数字だ。(参照:特養は安堵、基本型老健は苦境の報酬改定

そのため物価高や人件費の高騰に対応した経営ができなくなった基本型老健は決して少なくない。しかしそれは国の思惑でもある・・・在宅復帰率やベッド回転率が低い特養化した老健は倒産・廃業してもやむなしという考え方である。

そのことも影響したのか僕が1年間だけ働いていた老健は、今年1月末で営業終了して、9年前に新築した建物は精神科病床に転用されている。

ある意味これも予測された結果である。
決算
会計年度を国と合わせている介護事業者は、今日3/31は令和6年度の最終日となる。明日以降は令和6年度の決算に向けた様々な事務作業が始まることになるが、基本型老健の収支差率はかなり悪化することだろう。

しかも国は今後も基本型老健とその他に区分される老健の介護給付費を上げる気はなく、逆にさらに給付費を削って、在宅強化型老健に移行するように誘導していくことだろう。

それを改善するためには、在宅強化型老健に移行できるように在宅復帰率とベッド回転率を上げるしかない。それができない老健は、僕が以前勤めていた老健のように廃業するしかない。

基本型老健の経営者や管理職は、そのことを念頭にして今後の経営戦略を練り直す必要がある。
メディカルサポネットの連載、菊地雅洋の一心精進・激動時代の介護経営の第4回連載、若い芽を摘まない職場環境づくりが急務が3/25にアップされています。
菊地雅洋の一心精進・激動時代の介護経営
菊地雅洋の一心精進・激動時代の介護経営〜Vol.4目次
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