石川県七尾市の老健施設「寿老園」で8/22早朝、93歳の男性入所者が同室者である87歳の男性入所者に、杖や金属製のおもりで複数回殴られ殺害されるという事件が起こった。

同施設は従来型個室と多床室の施設で、個室が20床・2人部屋が24室48床・4人部屋が8室32床のあわせて100床の老健施設である。

容疑者と被害者は施設に入る前からの知り合いで、容疑者の自宅は大工だった被害者が建てたもので、一緒に食事をするなどの交流があったそうである。その為、二人が老健入所後に同室で暮らしていたらしい。(たぶん2人部屋ではないか?)

逮捕された容疑者は犯行動機について、「男性の嫌なところが見え、注意しても直らず我慢をしていた」という趣旨の供述をしているという。

この事件を伝える各種報道では、二人の人間関係の調整をはじめとして、施設側の対応に問題があったのではないかと臭わせる記事が目に付く・・・事前に施設が事件を防ぐような手立てはなかったのかと解説している記事も存在する・・・果たしてそうだろうか。
殺人事件が起きた老健施設「寿老園」
例えばMRO北陸放送オンライン8/26(火) 18:38配信記事では、介護の分野に詳しい(※筆者注何を根拠に沿う冠付けしているのか不明であるが・・・。)金沢星稜大学の曽我千春教授のコメントとして、「同じ部屋だということになれば事前に施設の支える側がしっかり両者の話を聞いたかどうかっていうことは問題になってくる」という言葉を載せている。

勿論、目に付くトラブルがあれば、施設は両者にアプローチして面談などを行い関係調整に努める必要はあるだろう。場合によっては居室調整として部屋替えも考慮に入れる必要もあろうと思う。

がしかし、表面に現れないトラブルだって少なくないし、日常の口論程度はよくあることだ。仲裁なんてしなくても、その場限りで終わるような口喧嘩に、いちいち施設職員が間に入ってあれこれかかわることを煩わしく思う人も少なくない。

施設関係者が個別面談などの席を設けるなど、あまり大げさに調整しようとすればするほど、そのこと自体が大事(おおごと)になって、入所者が暮らしづらさを感じてしまうような微妙な問題でもある。

ましてや居室調整となると当事者だけの問題ではなく、他の利用者も巻き込んで、住み慣れた居室を嫌々替えられる人も出かねない問題だ。

学者が軽々しく評論するほど、施設内の人間関係の調整は簡単ではないのである。あたかも両者の日常の感情の機微に気づかなかったことが本事件の原因であろうという決めつけるかのようなコメントはいかがなものかと思う。

ましてや同教授が、「介護職員が足りないっていう問題もずっと言われてきたのに低賃金から抜け出せなかったっていうことと国が社会福祉の専門職に対してしっかり保証をしてこなかったっていうのが今回の問題を起こした根っこにある」とコメントしていることには大いなる違和感と疑問を抱かざるを得ない。

それではまるで同施設の人手が足りないことが原因で、利用者のトラブルを見逃して対応しなかったことによって事件が引き起こされたといっているようなものだ。

たしかに介護業界全体の人手不足は深刻であるし、その原因の一つが全産業平均より低い給与体系にあるという事実はある。しかし本事件がそのことに起因しているという証拠や根拠はまったくないし、同施設が人手不足で利用者対応や見守り体制に齟齬があたという事実も明らかになっていない。

それなのに軽々しく本事件と介護人材不足・低賃金問題を結びつけるのは問題だ。このような取材コメントをする大学教授は、頭は良いかもしれないが、人としての品性は低いと思わざるを得ない。

本事件について、今現在事実として明らかになっている点で、施設側が早急なる対応をしなければならないことは、「凶器となった物品の管理」である。

加害者は被害者を殴り殺しているが、その凶器の一つとなった金属製のおもりは、老健施設のリハビリ室で使われていたものとみられている。その管理責任は問われて当然だろう。

そのようなものが簡単に持ち出すことができないように、保管体制の抜本的見直しは必要不可欠と思われる。
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