全国老施協など9団体が、今春の賃上げ等の状況を調査した結果が、今月19日に公表されている。
それによると、一般企業の賃上げ率は5.10%(中小賃上げ率4.45%)で、33年ぶりの高水準になっている中で、医療・介護・看護業は、業種別の賃上げ率で一番低い賃上げ率2.19%にとどまっているとことが明らかにされている。
これは極めて深刻な問題である。もともと全産業の平均給与より低いと云われていた介護職員の給与は、処遇改善のための補助金や加算によって、その差が縮小してきていた。そしてそのことによって、高いと云われていた離職率が下がり、全産業の定着率平均より高い水準にまで改善していた。
しかし賃上げ率が最低となったことで、せっかく縮まってきた賃金格差が再拡大したことになる。
このことによって介護事業者から、他産業に転職する人が増える可能性も否定できず、新規で人材確保するネックにもつながってくる。その為、介護事業者は人材確保が益々困難となり、人材確保ができないことによって事業継続できないケースも増えてくることが懸念される。
だからと言って医療・介護・看護業の賃上げ率2.19%という数字が、経営者の無能とか搾取による問題ではないことも事実だ。
収益のほとんどの部分を公費によらざるを得ない医療・介護事業は、賃上げ分を価格転嫁するということが不可能で、一般企業のように賃上げのハードルが高くなる。
介護で言えば、処遇改善加算の引き上げ率は前年度比 2.5%である。しかしこれは最上位加算を算定し、介護職員のみに配分した場合の引き上げ率だ。
そのような中で2.19%の引き上げを実施しているということは、収益分を含めて職員に還元している結果とも見て取れるので、経営者も最大限の努力をしているとみてよい。
よって民間との格差がこれ以上広がっては、介護崩壊につながりかねないことを国に訴えて、更なる介護給付費の引き上げを実現する努力を続ける必要がある。
だがそうした訴えに応えて、次の介護報酬改定時期である2027年度より前倒しして、介護給付費が上げられる可能性はほとんどないし、臨時の補助金も期待できない。
ではどうしたらよいのだろう・・・一つには、世間に向けて介護事業は、継続した給与引き上げを実施できることをアピールすることだ。
民間営利企業は、大企業の大幅なベースアップの影響も受けて、中小企業も大幅な給与アップに踏み切っているが、それ原資をすべて価格転嫁したり、収益アップ分から捻出しているわけではない・・・給与を上げないと人が集まらずに、経営困難となることから無理に無理を重ねて、引き上げ原資をひねり出している中小企業が多い。
そうしたところはそろそろ体力の限界で、来年度以降も継続して給与改善をしていく見込みが立たないところも少なくない。
それに比べると介護事業は、来年度も今年度よりさらに2.0%のベースアップへとつながる処遇改善加算の財源を確保しているし、再来年度については財源措置はされていないが、その意味は賃上げの進捗や他産業の動向などを踏まえて、直前の予算編成過程で判断し、必要な財源措置を行うということが前提である。(※2023/12/20、鈴木俊一財務相と武見敬三厚生労働相が折衝で合意済み)
このような安定的な給与引き上げ策がとられていることを求職者にもアピールし、かつ処遇改善加算の掛け率の元にもなり、介護職以外の職員の給与引き上げ原資ともなる収益を最大限に挙げる努力をしていかねばならない。
加算をいくら算定しても、利用者数が定員に満たなければどうしようもないのだ。施設サービスはベッド稼働率を高め、通所・訪問サービスは利用者数を増やす努力をしなければならない。
それと同時に、介護職員となる動機づけを護らないと、人材は張り付かないし、定着しないという理解も必要だ。
介護福祉士養成校に入学する学生の動機第1位は、「人の役に立つ仕事に就きたい」というものなのだ。これは何年も変わっていない。
そういう人々が、「人の役に立てる職業だと思って選んだのに全然違った」・「利用者への対応が流れ作業になってしまっている」・「こんなやり方が利用者のためになっているとは思えない」という理由で介護の仕事をリタイヤしているのだ。
そういう状態をなくしていかないと、いくら給与改善を進めたとしても、永遠に介護人材不足は解消しないことを肝に銘じなければならないと思う。
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