2024年度の介護報酬改定・基準改正のテーマの一つとして、「良質な介護サービスの効率的な提供に向けた働きやすい職場づくり」が挙げられているが、その具体策の中に、「生産性の向上等を通じた働きやすい職場環境づくり」がある。

今後20年程度は要介護高齢者が増え続ける中で、生産年齢人口の減少が続き、若い働き手がどんどん減り続ける我が国の現状を見ると、介護人材の更なる減少は確実であり、生産性を高めて効率的な介護実践を目指していく方ことは必然となる。

そこでは人に代わるテクノロジーを導入するだけではなく、介護労働の在り方を見直して、できるだけ無駄を省いていくことも必然だ。

ただし無駄である部分を間違って認識すると、逆に生産性は低下することにも注意が必要だ。

例えば認知症高齢者への対応・・・行動・心理症状(BPSD)のために何度も同じ訴えを続ける人の声に耳を傾けることは無駄なのだろうか・・・しかしその訴えを無視して、他の仕事を片付けようとすると、その訴えは止まらないどころか、どんどん心理症状は悪化して、その対応に追われ続けることになる。

忙しいことを理由に、他の業務で手を動かし続けて認知症の人の訴えに耳を傾けるというマルチタスクは、手を動かす作業と耳を傾ける作業の両者のパフォーマンスを下げて、どちらも生産性を下げる結果になりかねない。

認知症の人に対する介護の生産性を向上させるためには、一度手を止めて、しっかり訴えに耳を傾け、その場で落ち着いていただけるように対応するというシングルタスクが最も生産性を高める。
並ばなくてよい介護を
だが介護サービスの場で、最も生産性を低下させている方法論の象徴が、「行列ができる介護」・「行列を作る介護」だと思う。

トイレで排泄するために、廊下に長々と並ばされている利用者。入浴するために脱衣所の前の廊下にできている車椅子の行列・・・これらは複数の職員で分業するからこそできる行列だ。

トイレ内の介助や、脱衣所と浴室内の介助をする職員とは別に、そこまで利用者を移動・誘導する職員を別にしてしまうから、まだトイレや浴室に移動する必要がない人までそこに移動させ、長々と行列ができるのである・・・それは移動の前送りという無駄な時間の使い方に繋がっている。

分業をやめてマンツーマンで対応することによって、この行列はできない。分業しないと業務の効率化が図れず、余計に時間がかかると心配する人がいるが、移動を前倒しして行列を作るという業務ロスがなくなる分、トータルした介護業務時間は短縮されるのである。

行列を作るという悪習慣をなくすだけで、介護の生産性は向上するのである。

しかしそれは新しい方法論ではなく、ユニットケアの基本と言える生活支援型ケアでしかない。広域型の大規模施設でもそうした方法論を取り入れれば良いだけの話である。

つまり私たち介護実務者は、LIFE(科学的介護情報システム)以前から、エビデンスを実務から生み出しているのだ。そこを思い出すべきだと思う。
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