介護事業者に就職して、何らかの形で介護サービス利用者の方と関わっている人は、介護職であれ事務職であれ、職種は何であろうとも誰かの人生の一部に関わっているということになる。
人によってはその重みを理解できない方もいるのかもしれないが、それは紛れもない事実である。
介護サービス利用者にとってはそれは極めて重大なことで、自分が何らかの生活支援を受ける際に、その担当者や関係者が自分にとって気に入らない場合でも、生きるために我慢して支援を受けなければならないことが少なくない・・・それは心身に障害を持った以後の人生の幸福度を下げる問題に他ならない。
だが、他者の人生の一部に関わっているという実感をなかなか持つことができない人もいるのは致し方ないことだと思う。
そもそも介護の職業を選ぶ動機も様々で、人様のプライベート空間に踏み込んで生活の糧を得ようとしたわけではないのに、何らかの事情で会社が介護事業を行うことになって、そこで自分の意思とは関係なく介護の仕事をするという人も居るだろう。
そういう人にとっては、仕事として利用者に相対しているだけで、他人の人生に関わるという実感は持ちづらいだろうし、そのような考えは大げさと思うだろう。そして介護〜対人援助〜社会福祉事業であるという意識を持つこともできないかもしれない。
しかし心身に何らかの障害を持つ人にとって見れば、他者に自分の身を委ねるということは、決して軽い気持ちではできないことだ。
場合によっては、他人に知られたくない・見せたくないプライバシーをさらけ出して手を貸してもらわねば、日常生活が成り立たない人がいるという事実だけはしっかりと認識してほしい。
特に認知機能が衰えていない女性の高齢者は、若い男性介護職員に下の世話を受けることを恥辱に思う人は少なくない・・・そこまでいかなくとも、何の抵抗もなく自分より年の若い異性に身を委ねることができる人は多くはないだろう。そうした視点を常に持って支援行為に携わることができるか・そうでないのかということが、利用者が支援者を心から信頼できるか否かの分かれ道につながるような気がしている。
また、介護支援を行う人が常に利用者から受け入れられるというわけではないという事実にも向かい合ってほしい。
このブログを読んでくれている介護関係者の中で、介護関連の仕事に就いた以降、利用者や家族、あるいはその関係者から一度も嫌われたことがないと自信をもっていえる方が何人いるだろう。
僕は我が身を振り返ったとき、幾人もの人に何度か嫌われてきた経験がある。自分が良かれと思った行為が、利用者やその家族に受け入れられず、逆に不快感を与えた経験は決して少ないとは言えない。
若い頃は自分が悪いとは思えないのに、利用者や家族からいわれなき非難を受けることを憤ったこともある・・・しかしそれはいつしか間違った考え方であると思うようになった。
僕自身が正しいと思う行為でも、利用者が受け入れてくれないのであれば、それは決して正解とは言えないからだ。
それぞれ異なる感情を持つ人間は、同じ行為に対して万人が同じ反応を示すことはない。僕の正解は利用者の正解ではないわけである。そして対人援助という場では、支援者たる僕たちは何よりも利用者にとっての正解を導き出すことができるプロでなければならないのである。
そういう意味で介護の職業とは嫌われてなんぼという職業ではなく、好かれてなんぼの職業であると考えるべきだ。
なぜなら嫌いという感情は負の感情で、介護支援を受ける顧客自身がそうした負の感情を抱くことは、その人の人生の幸福度を削る結果にしかならないからだ。嫌だという感情を持つ利用者に、そうした否定的感情を持つことは間違いだと説得することに何の意味もなく、それは利用者にさらに嫌な感情を抱かせるだけの結果にしかならない。
だからこそ僕は、介護の職場に新しく入る職員に最初に掛ける言葉は決まっている。その言葉とは、「どうぞ立派な介護職員になる前に、感じの良い介護職員になってください」という言葉である。
誰かの人生の一部に関わるという意味は、誰かの人生の幸福度を上げることもできる反面、誰かの人生を不幸なものに変えてしまう恐れをも抱いているという意味だ。
どうかその重みを感じ取れる人間になってほしい。そう思えるかどうかが、その人の品格に繋がっていくのではないだろうか。
そう思えるかどうかが、介護の仕事に使命を感じ、誇りを持て続けられる分かれ道にもなるのではないだろうか。
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