特養の介護職員はともかく忙しい。
現在では利用者全員が要介護3以上の方々となっているので(※特例入所を除く)、ほとんどの方が移乗や排せつに何らかの支援の手を必要とするし、食事が自立で摂取できる人も少ない。
そのため特養の介護職員のケアの総量は、介護保険制度創設時とは比べ物にならないほど増えている。
看護・介護職員の配置は対利用者比3:1以上になっているとは言っても、それは雇用者全員の数を基準にした比率でしかなく、日中は一人で10人に対応したり、夜間は30人に対応したりしなければならない。
しかも介護という支援行為は、後回しにできず今対応しないとならないことが多い。例えば、「おしっこをしたいのでトイレに連れて行って。」という人が複数人数重なったからと言って、おしっこをするのに順番をつけて、前の人の順が終わるまで排せつするのを待ってもらうということは難しい。その場で同時に2人とか3人とかのトイレ介助が必要になることは日常茶飯事である。
しかし一人の職員で対応できることには限界があるのだから、対応できないことも出てくる。そうした部分で利用者に不利益を生じさせることは心苦しいが、やむを得ない状況も生まれてくる。
こうしたとき、インカムを通常装備して、ヘルプを求める行為に時間をかけないで、他の介護職員が駆け付けられる体制であれば、利用者に不便をかけたり、不利益を生じさせることは大幅に減少するだろう。
インカムや見守りセンサーとは、こうした目的で使うのが本来だろうと思う。
しかし国は、こうしたテクノロジーの導入を、人員配置基準緩和とリンクさせて考えており、ただでさえ少ない人員をさらに削ることが、「介護の生産性向上」であるとしている。
これに関して千葉県の幕張メッセで開催されていた展示会「医療・介護・薬局Week」で10/14、業界最大手のSOMPOケアの鷲見隆充代表取締役が講演を行い、「テクノロジーや介護助手などを導入し、施設によっては、3対1以下の人員配置にオペレーションを変更した場合でも、変更前後で利用者のQOL、職員の負担などに重大なネガティブインパクトが生じないことを、定量的に確認できることを目指している」と説明した。
少子高齢化がさらに進行し、全産業で労働不足になるわが国では、介護人材の確保がさらに難しくなり、このままでは介護事業経営が立ち行かなくなるとして、SOMPOケアが人手をかけずに効率的に介護を行う方法を、業界の先頭に立って創設するという意気込みを示した発言だと思う。
その気概や良しとしておこう。しかしである・・・。その方向にトップが前のめりになっている姿勢を、メディアを通じて流すことはいかがなものだろう。
このように、「人手を現在より削ってもネガティブインパクトが生じない」という前提で導き出す定量データに、どれほどの信頼性があるのだろう。

SOMPOケアのトップである代表取締役という立場の人が、公の場で発言して多くのメディアが取り上げて報道している発言を、真っ向から否定できるデータを、そのトップの下で働く従業員が表に出すことができるだろうか・・・。
業界最大手のトップが、結論ありきのような講演を行っていること自体が、SOMPOケア関係者にとっては大きなプレッシャーだ。そのため定量化するための取り組みの評価には、様々な忖度が働いてくるだろう。よって今後、SOMPOケアだ示す定量化された結論を、私たちは疑いの目で見ざるを得ない。
そもそもSOMPOケアとは、あのメッセージを買収して業界最大手になった企業で、メッセージが行っていた悪名高いアクシストシステムを踏襲したケア実践を行っているという。(※文字リンクはアクシスとシステムが介護現場を破壊しているとして告発した、「Sアミーユ川崎幸町での転落死の逮捕報道に際しての声明/東京北部ユニオン・アミーユ支部」の声明文である。参照していただきたい。)
声明文ではアクシストシステムを、「自分の仕事をこなすので精一杯で職員同士の協力・協働ができないシステムだ。」と糾弾しているが、SOMPOケアトップの考え方と一連の発言は、まさにそのシステムをさらに規模を大きくして広げようとするもので、「いつか来た道」を連想させるものでしかないように思う。
利用者のニーズに沿えずに、不便をかけたことを心の負担に感じる介護職員は多いが、そんなことを考える暇なく、自動的・機械的に業務を回せば心の負担は少しは減るかもしれない。しかしその代わりに、そうしたシステムに乗っかって黙々と作業労働をこなす介護職員は、正常の感覚を麻痺させて、利用者を待たせても、苦しませても、悲しませても何も感じなくなる。
そんなふうにアクシストシステムで心を壊した従業員がいて、アクシストシステムで狂った従業員に殺されたり、暴力を振るわれた何の罪もない高齢者が存在したのは、つい最近のことである。
それを繰り返すことになるのではないかと、非常に危惧している。
SOMPOケアの鷲見隆充代表取締役の最近の発言のいくつかは、かつてメッセージの会長だった橋本俊明氏が、メッセージが日本の介護のトップランナーになると高らかに宣言していた頃の内容と重なって聞こえるのである。
とても心配である・・・。このことについて、SOMPOケアで働く人々自身はどう思っているのだろうか。
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