介護サービスの現場は、毎日解決しなければならない様々な問題が起こるので、日々勉強の繰り返しである。

立ち止まっている暇はないので、いつも新しい知識を求めて学び続けなければならない。だから外部の研修や、OJT、OFF-JTは不可欠である。加えて定期的な職場内研修は欠かせない。僕の職場では、この職場内研修(当施設では園内研修と称している)は毎月行うことを原則としている。

しかし職場内研修で何をテーマにするかということはいつも悩みの種である。例えば「看取り介護研修」は、この加算を算定している施設は定期的に行うことが義務付けられているので、最低でも年1回しなければならないし、感染予防や褥創予防についても国からの通知文で実施義務が定められているから必ず年間研修計画等に盛んでいるが、そうしたテーマの繰り返しばかりでも知識の広がりはないし、現場で生きる知識を獲得しようと考えれば考えるほど、このテーマ創りは難しくなる。

そこで、一つの方法としては、現場で何が一番困っていて、そのことに対してどういう方向から考えれば問題解決に繋がるかということを、僕自身が考えながらテーマ決定することが多くなっている。だからと言って研修内容が現場のサービスに生きているという「成果」が見えないことも多いし、ある意味目に見えない感性を伸ばすという部分に期待しているものもあり、なかなかその評価は難しい。

しかし中には「やってよかった」と結果が見えるものもある。

2月の定期研修会では「認知症高齢者のケア」に関連してタクティールケアをテーマにした。これは「守ってあげたい」で取り上げた方のケアに関連して、何をしても落ち着いてくれない時に、せめて手を包み込むように優しく触りながら「〇〇さん、ごめんよ。〇〇さんが困っているのに何もできなくて。でもずっと僕らはここで○○さんを守っているからね」ということを伝えることも大事なのではないかと思い取り上げたものだ。

タクティールケアとは、もともとスゥーデンで生まれた「緩和ケア」の方法論だから、ターミナルケアの現場での方法論と言えるだろう。しかしこの方法が認知症の高齢者の方々にも効果があると言われており、例えば攻撃性のあるアルツハイマー型認知症の男性が、タクティールを受けるうちに静かで調和的になったり、不穏状態にあった女性が、タクティールケアを受けている間は静かに眠ることが出来るなどの効果が報告されている。

その方法は、対象者の手などを柔らかく包み込むように触れる方法で、指圧や手技療法とは根本的に異なるものだ。

その効果は科学的にも証明されていると言われており、それは皮膚への柔らかな刺激をすることで、接触受容体を刺激し、さらに知覚神経を介してオキシトシンの分泌を促し、オキシトシンが脳下垂体後葉から分泌されることによって、オキシトシンは血管内に放出され、体全体に効果を生み、鎮静化の作用を起こす。そのことにより、安心と信頼の感情が引き起こされ、それに伴って、良い気分になったり、不安感や恐怖感の緩和をすることが出来るものとされている。

だから方法としては、対象者の手を均一に柔らかく、しかもしっかり、ゆっくりとタッチして、同一の動きで皮膚の接触受容体を刺激し、脳下垂体からのオキシトシン分泌を促すことが大事だとされている。

具体的には、こちら「ヨミドクターのタクティールケアって? 触れて和らぐ不安感(動画あり)」を参照してもらうとよいと思う。

しかし我々の介護の現場では、ほんとに一人ひとりに向かいあう真の関係性を築く方法論のひとつと考えてもよいように思う。

だからタクティールケアが方法としてうまくできているかということより、そういう方法があるということを知って、それを現場のケアに生かす視点があって、いよいよ行動・心理症状に手が届かず困ったケースについて、最後は優しく手をさすって言葉をかけるということであってもよいと思っている。

そういう気持ちで施設内研修において、このテーマを取り上げたのだが、多くの職員がそれまでタクティールケアという方法があることも知らず、そういう言葉さえも知らなかった。

しかし先週ケアカンファレンスを行い、ケアプランを更新したケースの「サービス担当者会議の要点」を読んでいて、ケアプランにこの方法がしっかり取り入れられているのを確認して、テーマが生きていると感じた。

対象となった方は、96歳の女性で、検討内容として「認知症の進行・見当識低下により何をしてよいかわからないと困惑することが多くなり、心気症状や不安の訴えがある。話を傾聴することで落ち着くことも多いが不穏や不眠が見られるようになった。」とされ、対応方法として「タクティールケアを取り入れたコミュニケーションを充実させ、心理的安定を図るとともに、体調・睡眠状態の観察を行い不安感解消に努める。」と書かれている。

この方法はケアプランの一部にしか過ぎないし、その方法が必ず効果があるとは言い切れないが、施設内研修で勉強した方法論を、早速ケアプランに取り入れようとする姿勢は大いに評価してよいだろうと思う。

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