8/27の介護給付費分科会は、介護保険施設(特養・老健・介護医療院・介護療養型医療施設)のあり方が議題となった。(参照:第183回社会保障審議会介護給付費分科会(web会議)資料

その議論の中で、全国老人保健施設協会の東憲太郎会長が、介護保険施設のリスクマネジメントに関連して、今までにない新たな観点から非常に示唆に富んだ発言をしている。

その発言とは、「転倒や転落、誤嚥を事故と認定することについて少し意見を言いたい。例えば、認知症で危険の意識がなく歩行能力も衰えている方などが転倒されるということは、もう事故ではなく老年症候群の1つの症状ではないかと思う。」というもので、この手の専門家会議での発言としては非常に大胆な内容である。

なぜ大胆かと言えば、まかり間違えばこの手の発言は介護事故防止の責任の放棄ともとられかねないものだからである。言葉を切り取られて報じられれば自己責任を放棄したとして批判を受けかねないし、立場上許されざる無責任発言とバッシングを受ける恐れもないとは言えない発言だった。

しかし僕はこの発言に関して言えば大喝采だ。よく言ってくれたとエールを送りたい。

なぜならこの発言と同じ、「本音」を胸に抱えている介護施設経営者はたくさんいると思うからだ。まさにこの発言内容は、介護事業経営者や介護従事者たちの代弁であると言ってよいと思う。

転倒に関しては、僕自身がトップを務めていた施設の現状を報告しながら次のような記事も過去に発信している。

転倒〜リスクマネジメントが届かないケース」・「転ぶ人のいない特養にしたいが・・。

ここで僕は、『転倒をまったく「なくする」ことなどできない』と指摘したうえで、『転ばない施設を目指すあまり「歩けない施設」・「歩かせない施設」になってしまってはいけないし、車椅子を安易に使うことが当然としてしまってもいけない』と書いたが、その気持ちは今も同じである。

27日の介護給付費分科会で東会長が、「転倒などを事故とすることで訴訟が頻発している。しかも敗訴が多く大変問題となっている」・「転倒や転落、誤嚥は本当に事故なのか、ということも検討して頂きたい」と呼びかけたことは、まさに私たちが長年介護の場で訴え続けてきたことと同じ内容なのである。

質の高いリスクマネジメントや、ICTなどの先端機器を利用した見守り強化策を含めた事故防止対策の強化も大事だが、すべて完璧で満点しか得点のない事故対応を介護事業者に求め続けても、それはないものねだりでしかない。ヒューマンエラーはできるだけ減らす努力が必要だが、高齢者の誤嚥や転倒は不可抗力による場合もあるという視点は、介護現場で提供するサービスメニューが、誤嚥や転倒を防ぐあまり委縮して、本来の目的から大きく外れてしまうことを防ぐためにも必要な視点である。

現に特養のショートステイで一番問題になるのは、歩行状態が不安定な人がサービス利用したケースで、短期間で機能低下するという問題である。転倒の恐れがある人の場合、ショート期間中の最大目標が、安全に事故なく過ごすこととされてしまって、安全という名の下で過度な歩行抑制が行われ、車椅子で移動することを強いられるケースが数多くある。それがショート利用中に下肢機能をさらに低下させているのである。

こうした現状は、高齢者がサービス利用中に転倒して骨折するケースのすべてが介護事故とは言えないという視点を持つことでしか改善されない。「事情は十分理解できるけど、責任と賠償の問題は別だよね。」とされれば、どんなに善意の介護事業経営者だとて委縮してしまって、最も必要とされるサービスの在り方を見失うのも当然である。

誤嚥については、正しい食事介助の方法が教育されていないという問題もある。(参照:食事介助で大切なこと ・ 本当の実務論でしか介護サービスは変えられない

しかし食事姿勢を取りながら、適切に食事摂取の介助を行っても誤嚥は完全に防ぐことは出来ないし、ましてや自力摂取している人の誤嚥まで介護事故とされ、事業者責任にされてしまっては、事故を恐れて不必要な禁食・経管栄養がとめどなく増え続けるだけである。このように過度な責任の押し付けは、食事の経口摂取を阻害する要素が増大するだけの結果にしかつながらない。

そのような風潮に一石を投じたのが、「あずみの里裁判」であり、介護施設での誤嚥事故をめぐって業務上過失致死罪に問われていた准看護師の高裁逆転無罪の判決が、7月に確定したことは画期的な出来事であったと言える。(参照:あずみの里裁判・逆転無罪の高裁判決が示したもの

この判決確定が、介護事業者のサービス提供方法が過度の管理に傾くことの防波堤になり、本当の意味でサービスの在り方が利用者本位となる流れを生み出すことを期待しているが、その流れをさらに確実なものにするためには、介護事業における誤嚥や転倒の事故認定の在り方を議論する中で、誤嚥や転倒が、すべて事業者責任であるという意識を変えていくことが絶対に必要である。

そういう意味での建設的議論を望みたい。
登録から仕事の紹介、入職後のアフターフォローまで無料でサポート・厚労省許可の安心転職支援はこちらから。

※リスクのない方法で固定費を削減して介護事業の安定経営につなげたい方は、介護事業のコスト削減は電気代とガス代の見直しから始まりますを参照ください。まずは無料見積もりでいくらコストダウンできるか確認しましょう。




※別ブログ
masaの血と骨と肉」と「masaの徒然草」もあります。お暇なときに覗きに来て下さい。

北海道介護福祉道場あかい花から介護・福祉情報掲示板(表板)に入ってください。

・「介護の誇り」は、こちらから送料無料で購入できます。

masaの最新刊看取りを支える介護実践〜命と向き合う現場から」(2019年1/20刊行)はこちらから送料無料で購入できます。