介護事業における生産性向上が、本気で求められる状況である。
それだけ人材は足りなくなっており、その状況は今後もさらに深刻化し、人材不足が解消される見込みもない。
そこで求められるのが介護DX(Digital Transformation)であるという・・・それが必然であることに異論はないが、介護事業の生産性向上はDXだけで実現しない。
なぜなら介護とは事務処理仕事が大きなウエイトを占めるような職業ではなく、利用者に向かい合って身体介護や生活支援を行うという、究極のアナログ対応が迫られるからだ。ここに先端技術を結びつけることも必要とされようが、同時にアナログをうまく使いこなすことも必要になる。(※後述)
そこをどう考えるのかが大きな問題となる。
だがそこに至る様々な過程・・・ケアの方法論を導き出したり、それをチーム全体で共有する方法等については介護DXを推進する必要がある。その際、介護DXの意味が職場内全体で共有されているかが問題となる。

介護DXとは介護事業においても、デジタル技術を活用して介護サービスをはじめとする事業の在り方全般を根本から変革する取り組みを行わねばならないというものだ。
その際に混同されやすいのがIT化やデジタル化である。IT化やデジタル化はDXを実現するための手段であり、DXの前段階に過ぎない。
例えば、紙の書類をPDFにするのはIT化だが、それは特定の業務をデジタル化しただけに過ぎない。業務フロー全体をオンラインで完結できる仕組みに再設計するのがDX化であり、全社的な意識改革が不可欠になる。サービス担当者会議をオンライン化するだけではDXは道半ばなのだ。
IT化やデジタル化した部分を、それぞれつなぐためにアナログ仕事が増えて業務負担が増えてしまってはDXは失敗という結果にしかならない。
それを理解して介護DXに取り組んでいる介護事業者はどれほどあるだろう・・・IT化やデジタル化とDXの違いを分かっていない事業経営・管理職も少なないように見えるし、そもそもDXの前段階であるIT化やデジタル化に取り組んでいない介護事業者も少なくない。
例えばFAX・・・昔はそれはデジタル機器の最先端であったのかもしれないが、今やそれは紙を吐き出すアナログ機器だ。そのようなアナログ機器を使わなくとも介護事業に支障はない世の中になっている。現に僕が今フリーで行っている業務は、様々な連絡・情報のやり取りが必要となる仕事だが、FAXなんて使わない。よって用紙代やインク代はかからない。それらはすべて無駄な経費である。
プリンターも同様で、それはほとんど業務に必要ない機器になりつつある・・・というかしなければならない。
情報のやり取り、書類の保管等はデジタル化して紙やインクを使わないのが現状のスタンダードである。
ところが物価高に対応した介護給付費アップを叫ぶ介護事業経営者が、自ら経営する事業者における、こうした経費の無駄を放置している状況が少なくない。そこに手当てをせずに国に金を渡せというのは余りにもお粗末だ。そのような身勝手な訴えに正当性は見いだせなくなる。
その意識を変えて、その考え方を職場全体に浸透させ、オンラインで完結する業務を増やして業務削減につなげていく必要があるのだ。ここは特に労務管理・事務作業・情報伝達と共有場面で改革をしていかねばならない。
一方で前述したアナログ仕事を残存させざるを得ない介護業務・・・アナログ対応は効率が悪く、生産性を低下させるものだと決めつける人も多い。勿論、介護事業においては、そういう対応も多々あり改善していかねばならないという指摘もうなづける。
しかしアナログ対応がすべて生産性を低下させるかと言えば、決してそうではない。
例えば利用者の生活の質を低下させないためには、ベッド上で暮らしが完結しないように、日中の活動参加がキィーワードになる。そこで最も必要とされるのは移乗ケアだ。
そこにも機器導入を図り、電動ギャッジベッドや移乗用リフトが開発・導入されている。しかし電動ベッドが当たり前になっている今日であっても(参照:最先端機器導入より先に求められる従前機器見直し)、移乗用リフトは使われずに倉庫のゴミと化している施設は少なくない。
それは何故か・・・その理由は使い方が悪いのではなく、移乗用リフトの使い勝手が悪いからに他ならない。
移乗介助という行為のみを取り上げるなら、移乗用リフトよりもスライディングボードの方が使い勝手が良い。
ただしそれには前提条件があって、ノーリフティングケアという方法論を十分に理解し、そこでスライディングボードをどのように使いこなすかという知識がなければならない。
逆に言えばノーリフティングケアの知識と技術を持った介護職員であれば、アナログ機器であるスライディングボードを使いこなして、安全に安楽に一人介助対応で移譲介助を完結できる。介護職員全員がその知識と技術を持てば介護業務は省力化=生産性向上が図れるのだ。
これも5S活動に含まれる事柄である。(参照:介護生産性向上は5S活動が肝)
このように介護生産性向上は介護DXに加えて、介護実務の場でデジタル対応とアナログ対応を、それぞれ最適化する5S活動の両方がないと実現しないという理解が必要だ。
介護実務を知らない経営者と管理職だけで考える介護DXによっても、介護生産性向上が図ることができない最大の理由もそこにある。このことを理解せねばならない。
※筆者の講演予定はこちらからご覧ください。講演依頼はあかい花公式Web右上の✉をクリックしてお気軽に相談・お申し込みください。
※CBニュースの連載・快筆乱麻masaが読み解く介護の今112,「新人が成長・定着できる職場づくりは不断の努力で」が4/28・10時にアップされました。

人材確保のポイントは、人集め以前に定着する職場づくりです。こちらをクリックして参照ください。
※別ブログ「masaの血と骨と肉」もあります。お暇なときに覗きに来て下さい。
北海道介護福祉道場あかい花から介護・福祉情報掲示板(表板)に入ってください。
・「介護の誇り」は、こちらから送料無料で購入できます。
・masaの看取り介護指南本「看取りを支える介護実践〜命と向き合う現場から」(2019年1/20刊行)はこちらから送料無料で購入できます。

新刊「きみの介護に根拠はあるか〜本物の科学的介護とは」(2021年10月10日発売)をAmazonから取り寄せる方は、こちらをクリックしてください。