顧客という立場を利用して、暴言・土下座の強要・長時間の電話など、度を超えた行為で従業員を傷つける行為をカスタマーハラスメント略してカスハラ)と呼ぶ。

この言葉は既に社会に十分浸透していることと思う。

なぜなら厚生労働省が2018年頃から、パワハラ対策の検討の中で「顧客や取引先からの著しい迷惑行為」の問題を明示的に取り上げ、「カスタマーハラスメント」という言葉を使い始めたことで、この言葉は一気に社会的な注目が高まったという経緯があるからだ。

もともと日本では「おもてなし文化」が存在し、サービス業の過剰とも言える丁寧さが続いた結果として、「お客様は常に絶対に優先される」という意識が広がる傾向があった。そのため従業員に対しても「ここまでして当然」という過大な期待や要求が生まれやすくなったという背景がある。

介護事業者の従業員も、カスタマーハラスメント被害を受けることが少なくない。
ケアマネジャーに求められる鈍感力
特にケアマネジャーは介護保険サービスの窓口役のため、要望に応えられないと不満の矛先を向けられやすいし、女性が多い訪問介護員は、密室化する利用者宅の中で1対1で利用者対応する最中に、利用者の暴言に苦しめられることも多いと云われている。

4/4の北海道新聞朝刊では、こうしたケアマネジャーのカスハラ被害を取り上げて報道していた。

しかしその記事で取り上げられていたケースは次のようなものだ。
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妊娠できる若さのあなたに私のことなんて理解できない。別の担当をよこして。
札幌市内のケアマネの30代女性は半年前、担当していた高齢者の言葉に心をえぐられる思いをした。女性は流産の経験があり、深い悲しみの淵にいた状況がフラッシュバックした。
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道新がこのようなケースを、ケアマネが受けるカスハラ被害として紹介していることに僕は大いに違和感を覚えるし、利用者のこうした発言をカスタマーハラスメントと断じてよいのか、疑問も感ずる。

確かに女性にとって流産というのは過酷な体験であり、心に深い傷を受けるショッキングな出来事であることは想像に難くはない。

だからと言って、介護サービス利用者が自分の担当ケアマネの過去の流産体験を知っているとは思えず、「妊娠できる若さのあなたに〜」という言葉は、単純に自分はもう子供を産むことができない年になったという事実を語っているに過ぎない。

その言葉尻をとらえてカスハラ発言と言ってよいのだろうか・・・。

むしろあえて言いたい。利用者のそのような言葉にいちいち反応して落ち込むような弱い心で、他者の暮らしに深く介入して、他者の感情にも向かい合わねばならない対人援助という仕事はできないと・・・。

そもそも介護サービス利用者とは、サービス提供者の過去の体験やコンプレックスに配慮して接してくれる存在ではない。

そうであるにも関わらず、自分の過去の出来事に照らして、利用者のちょっとした配慮のない言葉にいちいち反応していては仕事にならない。

利用者がそのような事柄に配慮して言葉を選ばねばならないとしたら、誰とも接することができなくなるのではないか。

そういう意味で、利用者の暮らしに足を踏み入れて、利用者の様々な感情と向かい合わねばならない対人援助の専門家は、利用者の言葉端にいちいち反応しないで、そこは鈍感になる必要があるのだと思う。

心身に何らかの障害を持つ人は、自分より若く健康な担当者をうらやむあまり、担当者に対し不敬な発言をしてしまうこともあるのではないか。その言葉にいちいち傷ついては仕事にならない。

道新が紹介したケースで、利用者の言葉を聴いたケアマネが、「深い悲しみの淵にいた状況がフラッシュバックした」というのは事実なんだろうか、そうであればそのような状況に陥らないように、バイスティックの7還俗の一つである、「統制された情緒関与の原則」を学びなおさねばならない。

この原則は、援助者は自分の感情を自覚し、自分の感情をコントロールして援助するということである。(参照:アンガーマネジメントの基盤はソーシャルワークの原則

利用者の感情に引きずられて冷静な判断力を失わないプロの対人援助者として自分を高めることがまず必要とされることだろうと思う。

利用者が発する否定的発言を過敏に捉えて、それらがすべてカスタマーハラスメントだと捉えることによって、援助関係が壊れることはとても哀しいことのように思えてならない・・・。
メディカルサポネットの連載、菊地雅洋の一心精進・激動時代の介護経営の第16回連載記事が配信アップされています。
菊地雅洋の一心精進「激動時代の介護経営」
今回のテーマは、介護事業のアウトソーシング拡大は人材対策の切り札となるのか?です。文字リンクをクリックして参照願います。
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