介護保険制度改正議論でも俎上に挙がっている、「有料老人ホームの囲い込み」について、厚労省の検討会が先週、「素案」を提示した。
囲い込みとは、住宅型有料老人ホームに入所する利用者に対し、入所条件として、かかりつけ医師や担当ケアマネジャーを有料老人ホームの経営母体内の事業所の者に変更しなければならないと条件付け、外付けの居宅サービスもグループ内のサービスに限定するというものだ。
この問題はケアマネジメントの適正化議論とも相まって問題とされているが、今回の素案では、契約締結、ケアプラン作成といったプロセスの手順書、ガイドラインを整備して、入所契約時にホームの関連法人による介護サービスの提供が選択肢として示される場合について、実質的な誘導が行われないよう、入居契約とケアマネジメント契約が独立していることを重要事項説明書などで中立的かつ正確な説明を行うよう求めるとしている。
さらに有料ホームが居宅介護支援事業所、介護サービス事業所と提携する場合に、その提携状況を前もって行政に報告・公表するよう求めることで、運営の健全性を行政がチェックしやすい仕組みを作り、透明性の確保や適切な指導・監督につなげるとしている。
このことが囲い込みを防ぐだろうか・・・そのような効果は期待できないと思う。

ガイドラインはお願い程度の効力しかなく、罰則はない。
そもそも住宅型有料老人ホームは、特定施設の指定を受けていない有料老人ホームなので、介護保険法による運営指導の対象外のため、重要事項説明書の内容もチェックできない。
都道府県や指定都市・中核市には有料老人ホームに対して定期的な立入調査権があり、老人福祉法に基づく事業の制限又は停止を命ずる権限はあるが、そのような命令が行われた前例は多くない。
介護保険の定期的な運営指導が滞っている自治体では、それに加えて有料老人ホームの運営指導に割く人員も時間もないだろう。
そのためガイドラインに沿った重要事項説明書になっているかどうかは、実質的にホームの道義的責任として遵守することを期待するしかない。
また重要事項説明書がガイドラインに沿った内容になっていたとしても、そのまま入所契約時に利用者に伝えているとは限らない。「国の指導でこのようになっていますが、今後の○○さんの暮らしを考えたとき、当社のケアマネに交代してもらわないと、適切なサービスに支障を来します」などと誘導することを取り締まることは不可能だ。
そのため今回の素案が正式なものとして通知されたとしても、その効力には期待できない。
しかしこのように国が問題視し検討会まで創って議論している問題に、介護事業者がそっぽを向き、自浄作用が働かないとしたら、国はおとなしく手を引っ込めることはないだろう。
今回の対策に無視を決め込んだら、どこかで必ずしっぺ返しを食らうので、そうならないようにガイドラインで指摘された内容に沿った対応を心掛けなければならない。
特に住宅型有料老人ホームに併設されている居宅介護支援事業所のケアマネジャーは、ケアマネジメントの専門家としての矜持に基づいて、事業者本意ではなく利用者本位の計画作成を貫いてほしい。
その結果、計画書に載せるサービス事業者が自分の所属法人等に偏ることはあって当然だ。そのことを胸張って主張できるケアマネジメントであってほしい。
※メディカルサポネットの連載、「菊地雅洋の一心精進・激動時代の介護経営」の第10回連載がアップされました。

今回のテーマは、「病床削減と入院期間短縮施策に向けた介護事業経営」です。是非参照ください。
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