介護保険制度は、「介護の社会化」の実現を目指した制度である。
その意味は、介護問題を個人の問題として光が当たらない闇の中で完結されることがないようにするというもので、家族・・・特に女性が担ってきた介護を社会全体で支援するというものである。
その介護保険制度の設立から今年で25年。四半世紀が経った今、介護の社会化は成し遂げられたと云えるだろうか。
残念ながらそうなってはいないのが現実だ。介護はまだ個人問題として、社会のところどころで制度の光が届かない闇としてよどんでいる。

例えば今年9月19日、兵庫県南あわじ市で91歳の母親を殺害したとして68歳の息子が殺人罪で起訴された。息子は十数年前から母親の世話をしていて、一昨年母親が歩くことができなくなったあとはつきっきりで介護していたそうであるが、逮捕後の調べに対して、「おむつを替えているときに自分の手にしびれを感じた。介護できなくなったら、どうなるのだろうと思い、殺してしまった」と供述しているそうだ。
被告は内縁の妻と一緒に介護をしていたが、事件の1か月前からはその妻も体調を崩したため1人で担うようになり、行政などからの支援も受けていなかったそうである・・・被告にとって母親の介護は、被告個人の問題で、決して社会化されているものとは言えなかったわけである。
また9月26日には、川崎市で86歳の妻が91歳の夫の首を絞めて殺害したとして逮捕された。妻は「介護に疲れた」と供述しているという。この被告にとっても社会は個人問題で、社会化の光は届いていなかったわけである。
介護の社会化を謳った介護保険制度がスタートして以降も、こうした事件が後を絶たない。
こうした事件が起きないように、地域住民の隅々まで制度の光を届けるために地域包括ケアシステムの構築・深化を図っているわけであるが、光の届く範囲が広がっているとは思えず、光の影で愛する身内を手にかける事件が続いているのだ。
こうなる前に地域包括支援センター等に相談できることが当たり前になるにはどうしたらよいのだろう。相談される前に発見できる福祉の実現は不可能なのだろうか。
地域包括支援センターは、発見する福祉の最先端機関なのだから、センター職員は机にしがみついておらずに地域に出向いて地域の介護事情・介護問題を知ることに務めてほしい。地域住民向けの定期的な出張相談所の開設は、そのために必要不可欠のものだ。それを行っている地域包括支援センターが少なすぎる。
通所サービスや訪問サービスの従業員は、自分が送迎する家庭や訪問する家庭の周囲に、どのような人が住んでどんな暮らしぶりとなっているのかを知るためのアンテナを張ってほしい。高齢者夫婦世帯の窓のカーテンが日中でも閉まったままでいたり、何日も物干しざおの洗濯物が取り込まれていない家庭はないかということに注意を向けてほしい。
ひとり一人の介護関係者が、今より少しだけ地域事情を知ろうと努めるだけで、発見できる介護問題は今以上に増えるのである。
※メディカルサポネットの連載、「菊地雅洋の一心精進・激動時代の介護経営」の第10回連載がアップされました。

今回のテーマは、「病床削減と入院期間短縮施策に向けた介護事業経営」です。是非参照ください。
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