昨日大阪地裁で、4年前に住宅型有料老人ホームで起きた殺人事件に関する判決が下された。
とはいってもそれは殺人を犯した被告に下された判決ではない。そもそも加害者は、事件を起こした直後に7階の自室から飛び降り自殺をしている。このため府警は加害者の男性入所者を殺人容疑で書類送検し容疑者死亡で不起訴となっている。
昨日の判決は、事件の舞台となった有料老人ホームの経営母体に対する損害賠償を命じたものである。
事件は2021年11月16日夜、大阪市平野区長吉川辺3丁目の住宅型有料老人ホーム「ヴェルジェ平野南」で起きた。
施設1階の事務室で当直をしていた榊(さかき)真希子さん(68)が事務室で入居者の男(当時72)に金づちで複数回殴られて死亡した。(参照:事件概要)
容疑者は事件の約2週間前にも、施設内で別の職員のふるまいに腹を立て、蹴り上げた椅子が職員に当たったほか、事件3日前にもトラブルになった別の入居者を殴る蹴るなどし、ケガをさせていたため同施設を退去する手続きの途中だったとのこと。
しかし男の危険性が明らかになっている中でも、事件当日、被害者はたった1人で当直の業務にあたらされており、いわゆるワンオペ状態にあった。
そのため、事件は防ぐことができたのではないと、被害者の長女が一昨年2月、施設側に対し約3.900万円の損害賠償を求めて提訴していたものである。

裁判では長女らが施設側の安全配慮義務違反を訴えた一方、施設側は入所者による暴力行為については認めたうえで「犯行までは予見できず賠償責任はない」と主張していた。
昨日の判決で大阪地裁は「粗暴行為に及ぶ危険性があることを知らせ、内カギを施錠するなどの対応をしていれば死亡という結果を回避する可能性があった」などと安全配慮義務違反を認め、施設側に約3.900万円の賠償を命じた。
これは地裁判決であり、おそらく施設側は判決不服として控訴するだろうから確定判決とは言えない。
しかし被告側の訴えを全面的に認め、賠償額も請求額とほぼ同額を認めており、逆転判決を勝ち取るには高いハードルがそびえたっていると云えそうだ。
そもそも度重なる暴力行為を起こしていることを考えると、犯行予見はできないという施設側の主張は第3者からしてみれば極めて甘い見込みと云わざるを得ない。賠償金額が下がるとしても、賠償責任は免れないだろう。
だがこうした賠償金に保険は効くのだろうか・・・おそらくそのような賠償金を補填できる保険はないだろうから、賠償金は経営母体の持ち出しになると思える。あまり大きくない経営母体であれば、それは介護事業経営を揺らがせる問題になる可能性もある。
どちらにしても介護関係者は、本件を対岸の火事とせず、一つの教訓として、暴言・暴力の目立つ利用者に、経営主体として早急なる対策を講じ、決して職員対応に丸投げしたり放置しないという自覚が必要だろう。
住宅型有料老人ホームは、身体的に自立している人が多いのだから、力の強い男性入所者も少なくないだろう。そうした施設で女性一人で当直対応することも問題視されてよいのではないかと思う。
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