老健施設が誕生したのは1988年4月である。

同年1月に、「老人保健施設の施設及び設備並びに運営に関する基準」が交付されたのを受けて、老人保健法に基づいて新設された。

その際に老健とは、疾病等の急性期治療と急性期リハビリを医療機関で行った後に入所し、スムースに在宅復帰できるように回復期リハビリテーションを提供するという目的が掲げられた。そのように医療機関と自宅をつなぐ中間施設とう役割を負ったのである。

その老健が2000年4月以降に介護保険法に組み入れられ、特養と介護療養型医療施設と並んで介護保険3施設とされた。(現在、介護療養型医療施設は廃され介護医療院が新設されている。

この頃から老健の性格に変化が見られ、在宅復帰する利用者が減り長期入所する利用者が目立つようになった・・・老人保健法の際は、長期入所減算が存在したが、介護保険法による介護報酬となった以後、そうした減算がなくなったことも長期入所化に影響した。

そのため特養の待機場所としても老健が利用されるケースが増え、医療機関と居宅の中間施設であるはずが、医療機関と特養の中間施設であるかのような形も増えた。

こうした状況に対し、「それでいかん」・「在宅復帰させない老健は、その看板を下ろせ」と拳を振り上げたのが2002年に老健局長に就任した中村秀一氏であった。中村氏は戦後初めて診療報酬をマイナス改定させた剛腕局長として知られ、鳴り物入りで老健局長に就任した人で、今でも厚労省のバイブルになっている、「2015年の高齢者介護」を作成した人でもある。

その中村氏が、老健の在宅復帰機能を向上させるためには、在宅復帰した後の支援も必要として、それまで認めていなかった老健からの訪問リハビリができるように改革に取り組んだ。
夕暮れの海沿いを走る列車
それをきっかけにして老健の介護報酬も、在宅復帰率やベッド回転率の高い老健に、より高い報酬を配分するなど、現在の報酬体系につながる介護報酬改定を続けてきた。

そして2021年度の報酬改定では全体がプラス改定になる中で、基本型老健の改定率はわずかなアップしかされず、在宅強化型老健等に手厚い報酬体系となり、基本型老健の経営は益々難しい状況に陥った。(参照消滅に向かわざるを得ない基本型老健

その為基本型老健の多くが、在宅強化型への転換を目指したが、それができなかった基本型老健は廃止という道を選んだところもある。

そのような中で昨日、僕が管理する介護福祉情報掲示板に、「泊まりのデイサービスは在宅復帰にカウントできますか?」というスレッドが建てられた。

在宅強化型老健の報酬を算定するために、在宅復帰率を上げねばならないために、入所者を在宅復帰させるという名目で、実際にはお泊りデイサービスを3月間定期利用させて、それを在宅復帰率の計算式に入れて強化型の報酬を算定しているというのである。

しかしこれは認められない。スレッドにもコメントしているが、平成30年度介護報酬改定に関するQ&A Vol.1の問 105において、『退所した当日からショートステイや(看護)小規模多機能型居宅介護の宿泊サービスを連日利用する場合などは、「居宅において介護を受けることになったもの」に含まれない』とされているからだ。

ここでは『小規模多機能型居宅介護の宿泊サービスを連日利用する場合など』とされているので、小規模多機能型居宅介護に限らず、同じ形態の宿泊サービスであるお泊りデイも同様という解釈になる。

そうなると質問者がいた老健は、誤った解釈によって、本来算定できない高い報酬を算定しているということになり、さかのぼって報酬返還される可能性が高い。

だが当該老健の問題の本質とは、在宅復帰率の計算式に入れてよい状態の解釈を誤ったことではない。それより大きな問題は、そもそも老健の在宅復帰機能・中間施設としての役割を理解していないということだ。

老健とは、回復期のリハビリテーションを提供して在宅復帰させるだけではなく、在宅復帰した人に対しては通所リハビリや訪問リハビリといった適切な居宅サービスを結びつけて、在宅での暮らしを支え、より豊かな暮らしを送る支援を行うという役割を持つ施設なのである。

そうであるにもかかわらず、自宅に一度も帰ることができない人が、お泊りデイの3月連続利用をして、「自分の部屋もなくデイサービスのフロアで過ごし、日中ずっと座りっぱなし褥瘡ができる人もいる。」という状態を、老健自らが生み出しているという問題が見過ごせないのである。

算定要件の誤解や請求区分の間違いはともかくとして、利用者の豊かな暮らしという視点がない人たちが老健経営を行い、サービス提供を行っているという実態が見過ごせない問題である。

そういう老健に未来があってはならないし、そこで働いている人たちは、今一度自分たちの役割、老健の使命について見つめなおしてほしいと切に願う。
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