介護保険事業者に対して、令和3年度(2021年度)の基準改正で全サービスにハラスメント対策を講ずる義務が課せられた。
その際に職場内のハラスメント(モラハラ・パワハラ・セクハラ)と共に、顧客等からの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)の防止に取り組む義務も課せられた。
だがハラスメント対策の当初案ではカスハラ対策は含まれていなかった。それが後に追加されたのには理由がある・・・利用者宅を訪問してサービス提供する訪問介護員(※以下、ヘルパーと略)が、顧客の暴力・暴言の被害を受ける事例が数多く報告されたのである。
ヘルパーが利用者宅という密室で様々なハラスメントを受けているという実態が明らかにされると共に、それを放置して、「相手はお客様なのだから、多少の行為は我慢せよ」と対策を講じない管理者がいることが問題となった。
ヘルパーの成り手は女性が多いが、彼女たちが利用者宅で男性の顧客からセクハラ的言動を受けることに対して事業管理者が、「相手は障害を持った高齢者なんだから、適当にあしらって」と放置する事例が多数報告されたのである。
それはまかりならんというのが、カスタマーハラスメント対策を講ずることが運営基準に入れられた最大の理由である。

しかし相変わらず顧客の不適切行為に対して毅然とした対応が取れない事業者が存在する。ヘルパーに毅然とした対応を取らせない管理者もいなくなっていない・・・だがそれは後々大きな問題を引き起こしかねない。
訪問介護等を利用する要介護高齢者の方々の中に、サービス提供者を召使いであるかのように勘違いしている人がいる。男尊女卑の考え方を持っている人も少なくない。そうした考えを持つ人は、仕事で自分に対応する女性ヘルパーは、多少の迷惑行為・セクハラ行為を受け入れて当たり前という考えを持っていることがある。
その結果、女性ヘルパーの胸やお尻を触るのが当たり前のように手を伸ばす人がいる。それは明らかにカスタマーハラスメントであるし、わいせつ罪という犯罪行為でもある。
現在ヘルパーは高齢化が進行しているが。そのためセクハラを受けるヘルパーも人生経験の長い女性であることが多く、そうした年長女性ヘルパーは顧客のセクハラ行為を適当にあしらって、ヘルパー業務をうまくこなしているケースがある・・・しかしそれに甘えて、顧客のセクハラ行為を放置しておいてよいのだろうか。
セクハラ顧客を適当にあしらっていたヘルパーに替わって、他のヘルパーが対応した際に、同じ行為を受けて同じようにあしらえるとは限らない。
この4月からは、介護事業所等での実務経験等を有する技能実習生及び特定技能外国人について、訪問介護等訪問系サービスの業務に従事できるようになった・・・そのため外国人ヘルパーも徐々に訪問サービスの場で独り立ちして働くようになっている。
外国人ヘルパーとして活躍する人は若い女性であることも多い。それらの人が年長ヘルパーが適当にあしらっていたセクハラ顧客の、同じような行為に耐えられるだろうか・・・。
耐えられない人は、わいせつ行為を受けたことで心に大きな傷を負い、二度とヘルパー業務ができなくなるかもしれない。中にはそうした行為に及んだ利用者と、そうした行為を放置していた訪問介護事業所に賠償請求しようとする人もいるだろう。
顧客のセクハラ行為・カスタマーハラスメントを認識しながら、対応したヘルパーがうまくあしらっていることに胡坐をかいて会社が必要な防止措置を講じていなければ、労働安全衛生法上の安全配慮義務違反によって、使用者責任を問われる可能性がある。
さらに労働契約法(2008年施行)の職場環境配慮義務違反で債務不履行責任を問われることになるだろう。
このようにカスタマーハラスメントへの対応の緩さは、事業経営の危機に直結する問題となり得る。
介護事業経営者や管理職は、ヘルパーのあしらいに甘えず、毅然とした対応が求められることを理解しなければならない。
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