介護保険制度改正を議論する社保審・介護保険部会での論点として挙げられている地域3分類。(参照:全国3分類の施策を明示した検討会資料)
それは全国を「中山間・人口減少地域」・「大都市部」・「一般市」に3分類し、それぞれの実情に合う過不足のないサービスモデルを整備する考え方であり、次の改正のメインテーマともいえる。
それによって究極の地域包括ケアシステムの構築につながるだろうか・・・。
先週5/19に行われた社保審・介護保険部会では、高齢者の人口が増え続ける大都市部のサービスの在り方について、「ICTやAIも活用し、24時間365日の見守りを前提として、緊急時や利用者のニーズがある場合に、訪問や通所などの在宅サービスを組み合わせるような、包括的で利用者のニーズに応えるサービスのあり方を検討することも考えられる」という考え方が示された。
ここで云う、「訪問や通所などの在宅サービスを組み合わせるような、包括的で利用者のニーズに応えるサービス」とは何か?その内容からは前回の制度改正で新設が議論された新複合型サービスを思い起こさせる。
前回議論で提案された新複合型サービスの具体案は、訪問介護と通所介護を組み合わせた上で、両者の人員配置基準も合算させるという単純な合体サービスでしかなく、人材確保が最大の課題とされている中で、人員配置基準があまりにも厳しく、サービス提供の融通性もないサービスであった。
そのため現状にそぐわず、かつ小規模多機能型居宅介護との差別化も明確ではないために、求められないサービスということで実現されなかったわけである。(参照:お騒がせの複合型サービスはこのままお蔵入りか。)
今回はそうしたことがないように、人員配置やサービス提供者要件(※例えば資格なしに訪問サービスを行うことができる等)が柔軟性をもって示されるのだろうか・・・。
だが仮にそうした訪問や通所などの在宅サービスを組み合わせるような包括的サービスが示されるとしても、果たしてそれは大都市部でだけ求められるサービスといえるだろうか。
例えば「中山間・人口減少地域」では、そのようなサービスは必要ないのだろうか。

そんなことはない。現に19日の資料にも、「中山間・人口減少地域では、事業所・施設の人員配置基準の緩和、訪問・通所を柔軟に組み合わせたサービスの提供、包括的な評価の仕組みの導入」という考え方を示している。
人口が減少し続けている中山間・人口減少地域では要介護者も減っており、介護事業者から見れば、その地域だけのサービス提供では収益が上がらないというコスパの悪い地域となりつつある。
特に点在するわずかな数の利用者宅を訪問するサービスは、移動距離が長く収益を挙げられないということで訪問介護事業所などが撤退してしまっているところもある。そうした地域の利用者に対して、近隣の通所介護事業所から臨機に訪問ができれば居宅サービス難民を生まなくて済むかもしれない。
そういう意味で、融通を効かせて通所介護事業所の職員が臨機に訪問サービスができるという形の新サービスは中山間・人口減少地域でも求められてくる。
そもそもICTやAIは、人口密集地域で要介護高齢者が増え続ける地域のみで活用が求められるものではなく、過疎化が進み人口が減って、介護サービス提供できる従業員も集めることが困難となる地域でこそ必要とされるのではないのか・・・一般市についても、それは中山間地になり得る途上の地域かもしれず、同じニーズがあると云えるだろう。
地域を3分類に分けるという意味は、その地域の特性に合わせた柔軟なサービス提供を目指すということであり、究極の地域包括ケアシステムにもつながると期待する向きもある。
だがその分類は主に人口密集度・要介護者数によって決まるといってよい。果たして地域特性はそのような問題に限定して考えて良いのだろうか。
地域分類で柔軟なサービス提供を可能にするというが、例えば都市部で柔軟化された形態のサービスが中山間地では認められないとしたら、それによって柔軟性の利益を全く得られないことになる。それは不平等ではないと言えるのだろうか。
そう考えると、地域分類などせずに、一定条件下での柔軟なサービスを全国的に提供する仕組みを考えた方が良いのではないかと思う。
少なくとも地域分類ありきの制度改正論議にはしてほしくない。
※メディカルサポネットの連載・菊地雅洋の一心精進・激動時代の介護経営〜Vol.5の最新記事が5/14にアップされました。


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