先週4/16に公表された東京商工リサーチの最新レポートによると、昨年度(2024年4月から2025年3月)の訪問介護の倒産は86件。前年度から21.1%増加し、過去最多を大幅に更新した。

昨年度の介護事業者の倒産は全体で179件で、訪問介護はその約半数を占めている。

この数字は、2024年度の報酬改定でマイナス改定となった訪問介護の経営の厳しさが浮き彫りになっているものであり、ある意味当然と言える結果である。

マイナス改定とされた理由は、2022年度決算の介護経営実態調査で、訪問介護の収益率が高かったからだというが、そもそもその調査対象はどのように選択されているのかが大いに疑問だ。全国展開している大手事業者は、それなりの収益率を上げているが、中山間地などの過疎地域の住民に目を向けて、そこにサービスを行き届けるために頑張っている小規模事業者の収支差率はもともと厳しい状況にある。

そうした事業者が、物価高と人件費高騰の波をもろにかぶって経営困難になることは容易に予測できたのに、それらの小規模事業者を切り捨てるような報酬改定が2024年度に行われたのである。

その為に、収益が悪化して経営に行き詰まる訪問介護事業者が増えている。特に小規模の訪問介護事業者は荒波に呑み込まれているというわけだ。
中山間地
だがこの状況を手をこまねいて見つめているだけだと、訪問介護事業そのものが枯渇しかねない。特に高齢者人口がピークに達して減っていく、「中山間・人口減少地域」からは、コスパを考慮すると営業を躊躇する事業者も少なくなくなり、訪問介護事業者が撤退・廃業して、訪問介護真空地帯となりかねない。

よって期中改定を含めて訪問介護費(基本サービス費)の引き上げが不可欠ではないかと考える。

だが国はその部分は非常に腰が重たい。将来に渡って財源が枯渇しないようにするには、介護給付費の縮小が必要であるとして、訪問介護費自体の引き上げには及び腰だ。

そのかわり地域におけるサービスを確保し、複雑化したニーズに対応するためには、協働化・大規模化等による経営改善が必要だとして、例えば中小の事業者合併ではなく事業所同士の連携(バックオフィスの共同化やアウトソーシング等)に対する補助事業を強化するなどを模索している。

さらに4/14の介護給付費分科会で国は、「中山間地域等における小規模事業所加算(所定単位数の10%)」の対象地域を「その他」のみから拡大して、過疎地や辺地、豪雪地などであれば算定できるように緩和する考えを示している。
※正式通知は近日中に行われ、対象地域も明確になるので注目に値する。

これにより北海道は多くの地域で同加算が算定できるようになると思われ、歓迎できる改正ではあるが、それだけで訪問介護事業の存続が保障されるわけではない。何よりもヘルパーの成り手の確保が問題であり、ここに大きなメスを入れなければ根本問題は解決しないからだ。

このことに関連して淑徳大学の結城康博教授は、「介護保険制度が導入される前は、多くの自治体で公務員ヘルパーが活躍していた。」・「公務員ヘルパーの再興が不可欠」・「若い人材が公務員ヘルパーとして地域に根ざして働けるようになれば、地方創生という観点からも大きな意味を持つ

しかし介護保険制度創設以前と比較すると、訪問介護利用者は大幅に増えているのだ。それに対応して自治体職員の身分を与えたヘルパーで対応するとしても、地方自治体にその財源があるのかという問題がある。

北海道で初の財政再建団体となった夕張市は、それに対応不可能だろうし、夕張市に続いて財政破綻が懸念されている北見市をはじめとして、多くの地方自治体は財政難に苦慮している。

つまり自治体が責任を持ってヘルパーを確保するにしても、訪問介護事業が成り立つ報酬設定が絶対に必要なのだ。訪問介護費の引き上げを視野に入れてほしい。

それと共に中山間・人口減少地域などの利用者にくまなくサービス提供できるように、小規模事業者に対する規制緩和が必要不可欠だ。

そもそも減収となった訪問介護事業者の7割以上が、「ヘルパー不足でサービスの依頼があっても受けられなかったため」としているのである。(UAゼンセン日本介護クラフトユニオンの調査報告書による)

そうであれば、人材難に対処する思い切った改革が検討されてしかるべきだ。介護保険サービスのうち、介護職員に資格(初任者件数受講などのヘルパー要件)を求めているのは訪問介護だけである。

小規模多機能居宅サービスの訪問サービスは、ほぼ訪問介護と同じサービスなのに資格要件はない。

そうであれば思い切って、訪問介護も資格要件を外しても良いと思う。(参照:訪問介護員の絶滅を防ぐ手立てはあるのか?

同時に次の基準緩和も必要不可欠だ。

指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準
第五条「指定訪問介護の事業を行う者ごとに置くべき訪問介護員等の員数は、常勤換算方法で、二・五以上とする」

必ず2.5人以上の訪問介護員を確保していないと訪問介護事業の指定を受けることができない規定が、訪問介護事業の立ち上げの足かせになっていると同時に、人材不足が加速化する現状で、2.5人の訪問介護員確保が難しくなったことが原因で事業廃止しなければならない事業者も多い。

逆に言えば、この規定がなければ事業廃止せずに、2.5人未満の訪問介護員で事業を継続できる訪問介護事業者もあるのだ。

このようにヘルパー資格の廃止と、最低配置基準2.5人の見直しを進めることは、訪問介護事業の絶滅を防ぐ最低限の措置ではないかと考える。


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