※「生産性向上とは介護を作業化するにあらず」より続く。
要介護者の数は、今後15年以上増え続けると予測されている。(※おそらく18年後の2043年頃まで)
そのような中で介護職員の成り手は減っていくのだから、周囲に顧客ニーズがあったとしても、それに応える術を失ってしまう恐れがあることを考えると、今後の介護事業経営戦略を練るうえで一番の課題は生産性向上であることに異議を唱える関係者はいないだろう。
生産性が低い職場では、ひとりの職員の業務負担が増え、それを嫌って人材も集まらないという悪循環に陥っていくため、事業継続は極めて困難となると言わざるを得ない。よって生産性向上に向けて、早急に対策を講じなければならない。
だからと言って介護DXが生産性向上の肝になるかと云えば、その考え方には首を傾げざるを得ない。
云うまでもなく介護DXとは、AI・IOT・ICTといった身近なデジタル機器を活用して業務改善を図ることによって、今まで人為的にかかっていた時間を有効活用し、利用者に向けた質の高い介護サービスを提供する取り組みを可能にすると言われている・・・だが本当のところは、人が足りない部分をデジタル技術で補うことで、より少ない労力でそれまでと同じ結果を出そうとするものである。
昨日(3/17)に行われた第118回社会保障審議会介護保険部会でも介護生産性向上に向けた議論が行われた。そこでは厚労省が今夏、介護現場の事務負担を軽減するDXの推進に向けて事業所・施設などに新たな補助金を出す方針を示している。
具体的には介護事業者のパソコン設定のサポート、マイナンバーカードを読み取るカードリーダーの導入などの経費を対象とする。今年度の補正予算で確保した約50億円の財源を投じるという内容だ。
しかしこの具体策を見る限り、その補助金を活用して実現するものは、事務負担の削減につながるものでしかなく、肝心の介護業務負担の削減、介護実務の場の生産性向上にはつながらないものとしか思えない。
そもそも人に替わって介護をしてくれるロボットが存在しない現状では、テクノロジーを導入するだけだと介護実務の生産性向上効果はあまり上がらない・・・。
むしろ必要とされえるのは、介護業務を見直して業務の在り方を整理するという意味で、5S活動が求められてくると思うし、それが介護生産性向上の肝となるのではないかと考えている。

5S活動とは以下の5つの活動の頭文字をとって呼ばれる活動だ。
【整理】いらないものは取り除く
【整頓】必要なものをすぐに取り出せるようする
【清掃】身の回りを整理する
【清潔】きれいな状況を保つ
【躾】決められたルールを守る
いわゆる労務管理の在り方を示した活動であるが、それは今年度からの介護職員等処遇改善加算の算定要件である職場環境要件の生産性向上のための業務改善の取り組みの要件の一つともされている。
このことは単に職場環境を整理・整頓して必要な記録や物品をすぐに手にして業務をスムースにするという意味にとどまらない。
大事なことは、今の仕事の流れを見直してどの部分にいわゆるムリ・ムダ・ムラがあるかを洗い出したうえで、介護職には専門職でなければできない仕事に注力していただく、という意味合いが大きい。
たとえば、「介護職がやるべきことを整理せずして生産性向上はあり得ない」で指摘したように、介護助手を導入している事業者では、助手に渡せる仕事は積極的に渡していかねばならないのである・・・シーツ・包布交換を介護職員の業務にしているところに、人材は張り付かなくなるし、介護業務も回らなくなるという危機感を持つ必要がある。
バックオフィスでできる仕事は、そちらに回していくことも必要になる・・・シフト表作成・管理、利用者の預り金管理等を介護職員にさせていないだろうか。それはバックオフィスの業務にしなければならない。
LIFE情報提出関連業務の一部を介護職員にさせている介護事業者があるが、それは介護実務の生産性低下につながる問題である。
経営者や管理職には、そんなことをさせている介護事業者の介護は崩壊するという危機感を持ってもらう必要がある。
5S活動とは、こうした問題点をも明らかにして具体的に対策することを指すのである。
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