看取り介護で最も重要なことは、残された時間を意識したエピソードづくりである。
介護支援者の役割とは、看取り介護を通じてそうしたエピソードづくりの場を設けサポートすることに他ならない。
僕がかつて総合施設長を務めていた特養の看取り介護ケースを紹介したい。
92歳の女性が看取り介護に移行した際に、60代後半の長男から、「母には5歳離れた妹がいて、とても仲が良かったのですが、その妹が10年ほど前から難病を患って長期療養施設に入所しています。母は元気なころとてもその妹のことを気にしており、従弟(※かの妹の長男)からも、彼の母親がしきりに姉に逢いたいと訴えていると聴いているんですが、最期に逢わせてあげられないでしょうか。」という訴えがあった。
それを聴いた相談員が、早速妹さんが入院している施設の相談員に連絡を入れたところ、妹さんの病状は安定しており、「送り迎えがあれば、お姉さんが入所している施設まで出向くことは可能です。ただし車椅子移動の方なので、自動車の乗り降りにも介助が必要です。」という返事があった。
長男の方は運転免許を持っておらず、車いすからの乗降介助もできない状態である。その為、看取り介護対象者のエピソードづくり支援と考えて、特養側で送迎車(リフト付きワゴン車)と運転手を用意し、長男夫妻が付き添って妹が入所している施設と特養間の送迎支援を行うことにした。
そのことによって、姉妹の最期の面会に結びつけることができた。
看取り介護対象となった姉は、意識レベルが低下した状態にあって、妹が面会に来たことも十分に理解できない状態である。しかし妹の方は10年ぶりに姉の顔を見ることができて感激している様子が見て取れた。姉の手を握って、声をかける姿を見て、家族だけではなく特養の従業員も目に涙を浮かべて感動していた。
帰り際に妹は、特養の従業員に向かって、「皆さんが親身になって、優しい言葉をかけながら姉の世話をしてくれている姿を見て安心しました。これからもどうぞよろしくお願いします。」と頭を下げて特養の玄関を出ていく姿がそこにあった。
その姿を見て僕は、看取り介護対象者の方に無礼で馴れ馴れしいタメ口対応をする従業員が、ひとりも居なくてよかったなと思った。
もしそういう従業員が一人でも居たとしたら、10年ぶりに姉にあえた妹が、姉が過ごす最後の時間をこの特養で過ごすことに安心感は持つことができなくなったろうなとも想像した・・・だからこそサービスマナー教育は重要であるとあらためて思った。

先週の金曜日にオンライン配信した、「看取りを支える介護実践〜命と向き合う場に求められる本物の看取り介護」(一般社団法人山形県老人福祉施設協議会主催・看取り介護講演)でもこうしたエピソードを紹介したが、このように看取り介護とサービスマナーは密接な関係がある。
介護支援者は常に、「旅立つ人をどんな言葉で送りますか?」と自らの心に問いかけながら、看取り介護とは何かを考え続けねばならないのである。
なぜならタメ口を直せない人は、逝く人が旅立つときでもマナーのない言葉をかけてしまうかもしれないからだ。逝く人が寛大な心で、そのような無礼ななれなれしい言葉を許してくれるとしても、看取りの場にたくさん集まる親族すべてが、その言葉を許してくれるわけではないのである。
看取り介護を受けている父母の特養に面会に初めて訪れた人が、若い職員が看取り介護対象者にタメ口で接している姿を目の当たりにして、『あんなひどい態度の職員がいる場所で最期に過ごさねばならなかったのかと思うと、悔しくて・哀しくてならない』と嘆き悔やむ姿が生まれている・・・そんなつもりはなかったでは済まない問題である。
だからこそ看取りの場を哀しくさせないために、言葉遣いを含めたサービスマナーをきちんと確立なければならないのだ。
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