介護人材不足が深刻化する中で、様々な介護事業者が独自の工夫を行いながら、介護事業経営を維持しようと努めていることと思う。
が・・・しかし。工夫とは言い難い、無茶で不適切としか言えない方法で事業を継続しようとしているところも一部見られる・・・それが「できない契約」である。
例えば某特定施設の例・・・その特定施設では人員不足を理由に、「当施設は日常生活上の世話に特化した施設であり、機能訓練は基本的に利用者個人が自主的に行うことにしています」として、個別機能訓練加算を取得していないことを理由に、機能訓練を行わないと堂々と宣言して契約を交わしていた。

しかしこのような契約は、法令規定を無視した違法契約そのものである。
特定施設の基準省令(基本方針)第百七十四条では、「(前略)入浴、排せつ、食事等の介護その他の日常生活上の世話、機能訓練及び療養上の世話を行うことにより〜」として、機能訓練が基本サービスであるとし、第百七十五条では機能訓練指導員の配置義務も定めているのだから、機能訓練は自分でしなさいという契約は許されてはいない。
そもそも契約に定めれば何でも許されると勘違いしている人がいるのではないだろうか。
契約は法令範囲内において許される行為を定めるものであって、法令違反となる行為については、契約を交わしていても無効とされることを理解せねばならない。
施設サービスでは、「離床、着替え、整容等の介護を適切に行わなければならない。」と定めており、これらの行為が適切ではないと判断される契約は無効である。
人材確保が困難であっても、不適切な介護が許されるわけではないという常識を忘れてはならない。
例えば外出・・・コロナ禍という特殊な時期に数年にも及んで外出制限が行われたことによって、介護施設は外出を制限することが当たり前であると勘違いしている人が増えている。
その為、「施設従業員は施設内サービスに専念するので、外出支援は行わない」と定めて、施設入所後の外出については原則家族が行うという内容を入れた契約書にサインさせている介護保険施設も見られた。
しかし基準省令では、「入所者の外出の機会を確保するよう努めなければならない。」として、施設側が積極的に外出機会を創り、外出することを支援するのが基本サービスであると定めている。
さらに、「入所者に対し、その負担により、当該指定介護老人福祉施設の従業者以外の者による介護を受けさせてはならない。」とも規定されており、基本サービスである外出支援を、原則家族にさせるという契約は無効とされるのである。
施設利用者の外出は、「制限するものではなく、支援するものである」というごくごく当たり前の感覚を失わないでほしい。
また、「入所者が日常生活を営むのに必要な行政機関等に対する手続について、その者又はその家族において行うことが困難である場合は、その者の同意を得て、代わって行わなければならない。」とも規定しており、行政手続きは家族が行わなければならないというような契約も無効とされるのである。
このような無効契約を強要している介護事業者は、単にそれが無効であるとされるにとどまらず、法令遵守の精神がないと道義的責任が問われると同時に、無効契約を強要して利用者や家族に精神的な負担を強いたとして損害賠償責任が生ずる場合があることも念頭に置かねばならない。
コロナ禍という特殊な時期を経たことによって、それまでの常識が覆った感があるが、世間の常識と介護事業者の常識が異なってはならないことを今一度念頭に置いて、コロナ禍で麻痺した感覚を元に戻す努力をしなければならない人が多いように思う。
くれぐれも、「介護の常識が世間の非常識」とならないように、一般常識を失わない専門家でいてほしい。
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