従業員が退職を決意した場合、その意志を会社に伝えるために退職届を提出するのが一般的である。(※雇用契約上は、口頭であっても退職届の効力は生ずる)
しかし労働基準法には、退職を届け出てから何日間で雇用契約が解約されるかといった退職までの期間を区切るような規定は存在しない。
ではその期間は何によって規定されているのだろうか・・・その答えは、「民法」であり、下記のように規定されている。
民法第627条1項「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。」
このように従業員側からの退職の申し出は、理由が何であっても良く、かつ2週間前に退職の申し出をすればよいのである。
ところが会社側が雇用契約書の中に、退職申し出を○○月前までに行わねばならないとしていたらどうなるだろう・・・これも『事業者都合の「できない契約」は、法的に無効です。』という記事で解説した通り、民法規定を無視した契約内容ということになって無効とされる。
そうした雇用契約を結んでいたとしても、従業員はそれに縛られることなく、退職申し出から2週間で雇用解約ができ、会社側は必要な退職手続きをとらなければならないのである。雇用契約書に書かれた期間を過ぎないと退職できないなんてことはないのだ。
(※ただし退職金の支給制度などは、法的規定のない会社独自のものなので、退職する○○月前までに退職届を出さないと退職金は支給されない等の会社規則には従う必要がある。)
こうした問題は労働者の権利とも関連しているので、雇用者・被雇用者は、労基法のみならず、労働関連を定めた各法規定を知っておく必要がある。そして法規定には改正がつきものであるので、改正内容の情報を常にアンテナを張って知る努力をしなければならない。
そういう意味では、今年4月から施行される改正雇用保険法の内容も十分理解しておくべきである。特に今回の改正は、労働者が自己都合退職をしやすくなったという意味があり、人材不足が最大の悩みの種である介護事業者にとっても、大きな影響を受けかねないものとして十分な対策が求められると云えるのではないか。
自己都合退職が増えると僕が懸念する変更点とは以下のような内容だ。

雇用保険加入者の従来の失業手当(失業保険)については、自己都合で退職した場合は2カ月の給付制限期間があった・・・つまり自己都合で退職した人が即、次の職業に就かない場合は2カ月無給で過ごさねばならなかったわけである。
しかし新制度では給付制限期間が1カ月に短縮される。しかも自己都合による退職者が、離職期間中や離職日前1年以内に雇用の安定・就職の促進に必要な職業に関する教育訓練を自ら受けた場合には、給付制限期間は解除される。
(※ただし5年間で3回以上の自己都合離職をした場合には、給付制限期間を3カ月とする規定も同時に設けられている。)
雇用の安定・就職の促進に必要な職業に関する教育訓練は、ハローワークで申請すれば誰もが受けることができるもので、実質自己都合退職者(5年間で3回未満の場合)の給付制限はなくなるといってよいのだ。
これによって無給期間が生ずることを恐れて自己都合退職をためらう必要がなくなったと云えるわけで、4月以降、自己都合退職者が増えるかもしれない。
しかも給付制限なく失業手当が受給できることによって、失業してすぐに次の職につかなくても良いと考える人が増え、失業手当が受給できる期間全てを通じて就業しないで失業手当のみで生活することを選択する人も増えることも想定される。
そのため今以上に日本の失業者数は増え、失業期間も長期化してしまうのではないのだろうか。
全産業において労働力不足が叫ばれている今日、なぜこのような改正が必要だったのだろう。
この流れは間違いなく介護事業へも影響を与えるだろう・・・益々介護人材不足は加速化へ向かうという意味である。
よって介護事業経営者や管理職の方々は、この改正による逆風と荒波を乗り越えるための覚悟と対策が求められる。
まず何よりも自己都合退職者が増えないように、職場環境を整えて従業員がより働きやすい職場としなければならない。この職場で働き続けたいと従業員が考える介護事業者とはどのような事業者なのかを考えてほしい・・・それは従業員の待遇が良いだけではなく、介護サービス利用者も豊かな表情で、満足してサービス利用してくれる介護事業者なのではないのだろうか。
介護事業者の所属する従業員が、自らの仕事の結果が社会貢献していると考えることができ、介護という職業の使命と誇りを感じ取れる職場ではないのだろうか・・・。
その体制作りを怠る事業者は、顧客がいてもサービス提供者が枯渇して事業継続が困難となる。それは極めて的中率の高い予測・想定と言えるだろう。
※メディカルサポネットの連載、「菊地雅洋の一心精進・激動時代の介護経営」の第2回記事が本日アップされました。

第2回は、「介護事業者のカスタマーハラスメント対策を考える」です。カスタマーハラスメントへの毅然とした対応は介護業界でも重要な課題です。ハラスメントにより心身が傷ついてしまった職員が休職や退職に追い込まれてしまうことは避けなければなりません。しかしそれと同時に、利用者の正当なクレームを見逃すことなく、丁寧に対応することも重要です。そのような職場を作るためにはどのような考えや行動が大切か解説します。文字リンクをクリックして参照ください。
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特に部下から上司に対するパワーハラスメントです。
なかなか難しい問題ではありますが、対応しないと上司が鬱、メンタル不調に陥ってしまい、組織マネジメントができなくなります。
退職は簡単にできるが解雇はなかなかできません。現場を守るマネジャーたちを、このようなハラスメントから救う方法があれば、また別の機会にご教示願いたいです。
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