昨年末、耳にした介護関連ニュースで特に注目に値するのは、介護業界大手の「SOMPOケア」が、介護職の賃上げに年間で約14億円を追加投入し、「2030年度までに全産業平均まで引き上げる」というニュースである。
毎月勤労統計調査によると、2024年10月の全産業平均の現金給与総額は29万2430円であるのに対して、老人福祉・介護事業は21万4536円となっており、月額で約8万円の差がある。SOMPOケアは、介護職の給与を全産業平均まで引き上げるというのだから、仮に同社の給与水準が老人福祉・介護事業の平均給与並みであるとしたら、近い将来月額8万円近い昇給を行うことになる。これは大きな待遇改善だ。
SOMPOケアといえば、2021年10月に正職員である介護職員の給与を年収ベースで50万円引き上げたとして話題となったが、それは実際には全職員ではなく一部のリーダー職のみの賃上げでしかなかった。(※参照:SOMPOケアの介護職給与改善の続報)
それに対して不満を持つ一般職員の声も、僕のブログにコメントとして書き込まれたこともある。
今回はそうした一般職の不満をも解消しようと、介護職全てを対象にした給与改善に取り組もうという話のようだ。

昨年末に同グループCEOが会見して話した内容によると、給与改善の具体策とは、新たに投入する14億円を原資に、「働きがい向上手当」を新設し、今年4月から追加的に引き上げを図るというものだそうである。
これによって全職種全職員に月額平均で7800円が追加支給され、さらに賞与の支給額を4%引き上げるとしており、対象者はおよそ1万6千人で介護職員の賃上げ水準は平均で3.3%となるそうである。
多くの介護事業者が、補正予算に計上された処遇改善補助金の額に不満を唱え、追加的な処遇改善加算の引上げ等を要求する中で、それらの動きとは一線を画して、SOMPOケアという一企業が独自に給与改善を図ろうとして自己資金を投入することには素直に敬意を称したい。
会見で同社CEOは、「公的介護保険以外の収入を増やしていくことで、処遇改善に充てられる原資の安定的な確保に努める」と述べているのだから、国に頼らない姿勢を貫いて行こうという覚悟も感じられ、同グループ社員にとっては頼もしい経営姿勢であると云えるのではないだろうか。
ただしこのことは他の介護事業者にとっては大きな脅威である。
全国で事業展開しているSOMPOケアという大企業は、介護実践の場にテクノロジー導入して生産性向上にも先進的に取り組んでいる。そうした企業が給与の引き上げを行って従業員を募集するとすれば、中小の介護事業者には益々人が集まらなくなる可能性が高まる。
だからと言って中小介護事業者が同じように昇給ができるわけではなく、その結果は、中小介護事業者が淘汰されて、SOMPOケアの寡占地域が生まれかねない。
社会福祉法人も非課税待遇に胡坐をかいて、個人商店的経営に甘んじていると淘汰されてしまう。その為、法人合併などで規模拡大を目指す戦略が具体的になっていく可能性がある。保険外収入を得る方策を練っていくことも必然の戦略となるだろう。
そちらにしてもSOMPOケアの給与引き上げは、他の介護事業者にも大きな影響御与える問題で、介護事業経営戦略の練り直しが求められることになるだろう。
その動きに無関心な介護事業者は、すでに廃業へのレールに乗ってしまっているといってよいだろう。
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