介護保険法ではこの制度の理念の一つが、「自立支援」であるとしている。

しかし同法第1条をよく読むと、この法律は国民の福祉の増進等を目的としていると書かれている。

そのために要介護状態となった人について、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう必要なサービスを給付するとしている。
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介護保険法 第1章 総則
第1条 この法律は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき介護保険制度を設け、その行う保険給付等に関して必要な事項を定め、もって国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とする。
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このように自立支援は、国民の保健医療の向上及び福祉の増進という目的を達成するために必要となる理念ということになる。

つまり自立支援自体が目的ではないのだ。

しかも自立を支援することについては、「その有する能力に応じ」という条件つきである。有していない能力まで自立させようとするものではない。

そもそも国民の福祉の増進とは、要介護状態になった方々ひとり一人のQOL(暮らしの質)が向上してこそ実現するものなのだ。
自立支援という名の放置
そこでは何ができるかをアセスメントし、できないことも把握したうえで、できるのに出来ていないことはできるようにしようという意味でしかない。

というより、この法律は超高齢社会の中で、少子化が止まらず、財源がさらに厳しくなることに備えてそう成立した法律であるということを忘れてはならない。

国民は国に頼らず、自分でできることは自分でせよという意味であり、国の財源を使った支援は最低限にとどめようというのが本音なのである。そのことを踏まえると、「自立支援」を唯一絶対の価値観だと勘違いしてはならないことに気が付くのではないだろうか。

ところがそのことを理解せずQOLの向上という視点に欠けて、自立支援一辺倒のアプローチしかしない・できない介護関係者が多すぎる・・・。

例えば、「お世話型介護施設から、自立型介護施設への脱却」というキャッチフレーズを使って、自立できない高齢者の尻を叩き続ける特養が出現している。自立を支援するのは良いが、えてしてそうした特養の経営者は、お世話することそのものを嫌悪する発言をしていたりする。

できることを続けることは大事だが、80代・90代の高齢者は、できることでも周囲の人がさりげなく気を使って支援してくれることに、他者の愛情を感じて、「長生きするのも悪くない」と思ってくれたりするのだ。それが生きる喜びにもつながるのだ。

できることは頑張って続けないととダメだと云うが、いったいいつまで人は頑張り続けねばならないのだろうか。80年も90年も頑張って生きてきた人が、さらに自立を強要される施設で、安心した暮らしを営むことはできるのだろうか。そこで暮らしたいと思うだろうか。

人の暮らしとはもっと多様性があるものだろう。一つの目的だけで表現できない多様性の中に生きるからこそ人生は豊かになるのではないのか。

特養がお世話することに特化する必要はないが、自立支援をことさら前面に押し出して、世話を受ける人の肩身を狭くするのもどうかしている。

価値観はもっと広げるべきであり、一つの目的をあまりに全面に出して生活施設を経営すべきではない。

自立型と謳う介護施設は、その多様性を喪失させてしまうだけのように思えてならない。せめてケアマネジメントをはじめとした、我々の対人援助の視点は、頑張らなくてもよい介護を模索しなければならないのではないだろうか。

居宅サービスもしかりである。頑張って家事を続け、ひとり暮らしを続けている人に対して、「毎日の家事は大変でしょう。週1回くらいは家事も休んで体を休めましょうね」と言いながら生活援助プランを組んでくれるケアマネジャーに信頼を寄せて、そうしたケアマネジャーの存在を心の杖にして、在宅生活を続けられる人が実際に存在しているのだ。

そういう高齢者の方々が、世話を受けることに引け目を感じる世の中はどうかしている。

世話を受けて何が悪い・世話して何が悪いと云いたい。それはこの国で長生きしてくれた人に対する社会の義務であろうと思う。
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