昨年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2024」(いわゆる骨太方針2024)には、「カスタマーハラスメントを含む職場におけるハラスメントについて、法的措置も視野に入れ、対策を強化する。」の一文が書かれている。
これを受けて各企業では、カスタマーハラスメント対策強化の動きが目立っている。
介護事業者も例外ではなく、すでに令和3年度の基準改正でハラスメント対策を講ずる義務が課せられたところであったが、その中でも特にカスタマーハラスメント対策の強化に努めようという動きが見られた。

顧客からのハラスメントを受けて心身の不調に陥る従業員がいなくなるように、対策を講ずること自体は非常に重要な視点である。
特に被害者への配慮のための取組(メンタルヘルス不調への相談対応、行為者に対して1人で対応させない等)は最重要課題として、具体策を講じておく必要がある。
しかしここで勘違いしてはならないことは、顧客からのクレーム=カスタマーハラスメントではないということだ。
カスタマーハラスメントとは、従業員に対する暴行や脅迫、暴言などの行為によって、従業員が安心して働けなくなる状態に陥るような 顧客による理不尽なクレーム・言動を指す。
顧客からのクレームであっても、それが正当な要求・主張であればカスタマーハラスメントとは言えないわけである。
しかも介護事業の場合は、正当なクレームでさえもその声を挙げられない人が少なくないという特徴がある。
なぜなら顧客である介護サービス利用者は、心身に重たい障害を持っており、その中には正当な要求や不平・不満の声を自ら挙げることができない人も少なくないからだ。
その人に代わって不平・不満の声を代弁すべき家族にしても、子である自分がクレームの声を挙げることで、自分が見えない場所で重度の障害を持つ親が、不当な扱いを受け必要な介護を受けられないのではないかという恐れから、正当なクレームさえも呑みこんで、声を挙げずにじっと我慢している人も数知れない・・・。
僕の著書に載せた長い爪というコラムは、ベネッセコーポレーションの高校生等を対象にした全国模試・小論文テストの出題として全文が掲載されている。(参照:コラム「長い爪」が試験問題になりました。)
このコラム内容は、有料老人ホームに入所している認知症の母親に対する適切なケアが行われていないことのクレームを挙げられなかった家族が、影で涙しながら静かに母親を退所させたケースを紹介したものだ。
このケースのように介護サービス事業には、表に出ない正当なクレームというものが「なきもの」として葬り去られてしまっているものが少なからず存在する。
その状態は、介護サービス利用者の哀しみと不幸を土台に、介護事業が成り立っているようなものであり、決して放置しておいてよいものではない。
そのような状態をなくすために、カスタマーハラスメント対策に取り組む介護事業関係者は、顧客の主張や要求がすべてカスハラに該当するわけではないことに注意するとともに、正当なクレームであるにもかかわらず、声になって挙がってこないクレームも存在するのではないかということにも配慮してほしい。
そうした声なき声に耳を澄ます姿勢を常に持ち、失わないことで初めて見えてくるものがあるのではないか。
それは介護支援を求める人の、表するに出されていない悲痛な心の叫びであったりする。そこに手を差し伸べることがない介護に存在意義はないと云えるのではないだろうか・・・。
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