賃金水準が全産業平均より低いと云われる介護職員の給与改善は緊急的な課題である。

昨年の春闘で、他産業が大幅な賃上げを行った中で、介護事業は報酬改定でわずかなプラス改定分を賃上げに回しても、民間の改善額とはかなりの差が生じ平均給与の格差はさらに広がった。

今年の春闘も近づき、他産業は更なる賃上げに向けて動いている。介護業界がその動きに遅れると、給与格差は益々広がりかねない。

これを放置しておれば若年労働者から、介護を職業にしようとする動機づけが失われていく。それは介護人材確保が不可能に近い状態になるということに繋がり、介護事業崩壊へと繋がっていく。

そのため介護事業者や職員らでつくる業界8団体は23日、経営環境が厳しさを増し人手不足も深刻化しているとして、職員の処遇改善を求める要望書を厚生労働省に提出している。さらに国会内で開いた集会で、介護報酬の引き上げや人材確保を訴えた。

だがこの運動が実を結んで、緊急的な処遇改善加算の引き上げが行われる可能性は極めて低い。国の腰は極めて重いと考えた方がよい。だからこそ国の動きに頼らない形で、収益を挙げ、その分を従業員の給与改善に回していく最大限の努力が、介護事業経営者には求められる。(参照:国に頼るだけの待遇改善ではもたない・・・。

同時に従業員が簡単に辞めるようなことがなく、定着する職場づくりを行っていく普段の努力が必要とされる。

従業員が働きやすい職場環境を創ることは、人材確保・定着のためには重要な要素である。

従業員の専用ラウンジなどの環境整備といったハード面だけではなく、休みがとりやすいとか、勤務時間をはじめとした働き方に選択肢があるといったソフト面も充実させていくことは、人材確保のためになくてはならない要素となっている。

しかし対人援助の仕事は、従業員の待遇や環境だけに目を向けて考えられない部分がある。

介護福祉士養成校に入学する生徒の動機づけは、毎年「人の役に立つ仕事に就きたいから」というものである。介護のプロを目指そうとする、そうした若者たちが募集に応募して、定着する職場とは、それらの若者の動機づけに答える職場環境というものが同時に必要なのだ。
心が折れる
人の役に立ち、社会に貢献したいという志を持って2年間介護福祉士養成校で学び、卒業し介護事業者に就職した若者たちの幾人かが、5月のGW明けのころに元気をなくして辞めてしまう。

そうした子らが僕のもとに相談に来て愚痴る内容とは、「人の役に立てる職業だと思って選んだのに役に立てない」・「利用者への対応が流れ作業になってしまっている」・「こんなやり方が、利用者のためになっているとは思えない」・・・。

こう考えて辞めていく人は、介護事業者において将来貴重な人材となる可能性がある人たちである。そういう人たちが辞めてしまうのは、人材流出でしかない・・・こういう人たちこそ定着してほしい人と言えるのではないか。

数合わせの人員がいくら定着しても介護の生産性は上がらない。手を動かす前に仕事の愚痴で口だけ動かしている人は介護実務の場にいさせてはならないのだ。

忘れてはならないことは、介護サービスの場には利用者の存在があるということだ。それらの利用者は介護サービスという目に見えない商品を購入するお客様でもある。

しかしそのお客様の別の一面を見ると、自分の身をサービス提供者に委ねて、なおかつ最もプライベートな部分も全てさらけ出してすがらねばならないという性格を帯びてもいる。

介護サービスの顧客とは、このようにサービス提供者に自分の最も恥ずかしい部分をさらけ出さねばならないという一面を持つのである。

それらの方々が自らの身を安心して任せられる信頼できる介護のプロが求められていることを忘れてはならない。そういうプロの矜持を持って働き続けることができるサービスの場には、志の高い優秀な人材が張り付き定着するのだ。

そういう環境をも創り上げていかねばならない。困難な道ではあるが、これをしないと真に必要な人材は定着しないのである。
メディカルサポネットの連載、「菊地雅洋の一心精進・激動時代の介護経営」の第2回記事が本日アップされました。無料登録でどなたでも読むことができます。
一心精進・激動時代の介護経営
第2回は、「介護事業者のカスタマーハラスメント対策を考える」です。カスタマーハラスメントへの毅然とした対応は介護業界でも重要な課題です。ハラスメントにより心身が傷ついてしまった職員が休職や退職に追い込まれてしまうことは避けなければなりません。しかしそれと同時に、利用者の正当なクレームを見逃すことなく、丁寧に対応することも重要です。そのような職場を作るためにはどのような考えや行動が大切か解説します。文字リンクをクリックして参照ください。

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