東京都足立区の住宅型老人ホームで、給与未払いのために従業員が一斉退職して、サービスを受けられなくなった入居者が実質、介護難民となっていることについて今月11日に、「民間有料老人ホームの闇」という記事をアップして論評した。
このことに関連して厚労省は18日、「介護保険最新情報のVol.1321」を発出し、全国の自治体に対して、有料老人ホームの安定的な運営の確保に向けた事業者への指導を徹底するよう求めている。それは足立区のようなケースが、全国の複数の住宅型有料老人ホームで発生しているからである。
しかしこうした問題が行政指導で解決するだろうか・・・そもそも不適切運営を行っている住宅型有料老人ホームに対する行政指導の効力はどこまで及ぶものだろうか?

有料老人ホームの経営は民間営利企業でも可能である。その中でも住宅型有料老人ホームとは、特定施設の指定を受けていない有料老人ホームのことであるのだから、介護保険の指定事業は行っていないことになる。
そして有料老人ホーム自体は老人福祉法の規定に基づいて都道府県に届け出るだけで経営ができてしまう。都道府県は届け出を受け付けないという権限はないわけである。
届け出を行う意味は、入居者の居住の安定を確保する観点から必要な行政指導を行うためであるが、この行政指導に従うか否かは、老人ホーム側の姿勢にかかってくるわけで、仮に行政指導を無視して改善指導に従わない場合も、罰則を科すなどの強制力はない。
介護保険事業のように、指定を取り消されれば介護報酬を得る手段がなくなって、そのことが事業経営を破綻させることにつながるといった罰則が存在しないのである。
そもそも全国を見渡せば、届け出義務さえも無視されている実態が見て取れ、無届の有料老人ホームも散見されている。それらの法令違反に対して、行政は届け出を促す指導はできるが、無視されればそれまでである。
そうであるがゆえに、今回の自治体に対する通知通り行政指導が行われたとしても、放漫経営や無責任運営を根絶することにはつながらない。ほとんど何も変わらないだろう。
法的問題が絡むため、実質的に強制力のある罰則を強化することも容易ではない。
すると住宅型有料老人ホームの放漫・無責任経営から高齢者を護り、暮らしの場を奪われるという被害者を発生させない唯一有効な手段は、住宅型有料老人ホームの選択の段階で、ユーザー自身ができるだけ正確な情報を手に入れ、賢くホーム選びをするということしかないのではないだろうか。
そうであれば地方自治体は、有料老人ホームに形だけの指導を行うことに躍起になるのではなく、地域住民が正確な情報を受け取れるようにサポートする役割が求められるのではないか。
住宅型有料老人ホームを選ぶに際して、地域住民がより正確な情報を得ることができる手段はないかと考える方が、より問題解決に近づくのではないのだろうか。
勿論のこと、行政機関が特定施設名を挙げて優良・劣悪と喧伝することは、民業を圧迫する行為として許されないだろう。
しかし住宅型有料老人ホームのどこそこに、かれこれとした内容で行政指導を行ったという情報、そうした指導の結果どのような改善が見られたのか、あるいは改善されていないのかなどの情報は、客観的事実として地域住民に伝えても問題ないのではないだろうか。
そのような形で地方自治体にも、行政DXが求められる時代だと思う。
※メディカルサポネットの連載、「菊地雅洋の波乱万丈!選ばれる介護経営」、第10回は「利用者ニーズをどのように捉え、どう応えるべきかを考える」がテーマです。

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