今から10年前、山梨県甲府市のGHで浴槽の温度を確認しないまま熱湯の湯船に入れられた入所者が、大やけどを負うという事故があった。
認知症という状態になっても、安心して暮らしを営むことができるはずの場所で、入浴支援というサービスを受けたことが全身の大やけどにつながり、身体に相当なダメージを与えたこの事故は、まかり間違えば死亡事故にもつながりかねないものだ。そうなったら取り返しはつかない。
当時僕は社福の総合施設長という立場だったので、この事故の報を受けた朝、このような悲劇が介護施設等で起こってはならないとして、朝礼で全職員に注意を促す訓示を行った。(参照:当たり前のことができない恐ろしさ)
本来、湯温を確認せずに入浴介助するなんてことはあり得ないことではあるが、実際にあり得ない事故が起きたという事実は、油断すればいつ自分たちの身の上の問題になるかもしれないと考えなければならず、細心の注意を払わねばならない。
そのための事故防止対策も、油断せずに繰り返さねばならないし、その必要性を全従業員が理解できるように、過去の事故事例も繰り返し検討していく必要がある。
そうした考え方に基づいて、新人職員がOJTに入る前の基礎座学でも、介護施設や居住系施設、訪問・通所サービスで過去に起こった事故事例を紹介し、同じ事故が起きないような教育も行っている。
冒頭で紹介した入浴死亡事故も、毎年繰り返し紹介している事故事例である。
しかし北海道の特養で、同じような事故が起きた。しかも今回は最悪の死亡事故につながっている。
(事故概要)
札幌市豊平区の特別養護老人ホームで今年3月、湯船のお湯の温度管理を怠るなどし、入浴した入居者の女性=当時(88)=に全身やけどを負わせて多臓器不全で死亡させたとして、40代の男性介護職員が書類送検された。事故が起きた特養ホームによると、当時、女性の入浴の介助は男性職員1人で行っており、別の職員が温度などをチェックできる体制になっていなかったという。
10年前の事故とほとんど同じ経緯で起こった事故であり、その結果は重大すぎる。本来最も安心して暮らすことができる終の棲家ともいわれる特養で、日常ケアの一つにしか過ぎない入浴支援を受けている最中に、信じがたい温度の熱湯風呂に入れられ、熱い・痛いと悲鳴を上げながら死んでいくことを誰が想像できたであろうか・・・被害者の方やその家族にとって、これほどの悲劇はない。
同ホームは男性職員を処分する方針だというが、過去に他の介護事業者で起こった事故と同じ事故を起こした責任は、個人に帰してよい問題なのだろうか・・・。
僕はそうは思わない。責任は施設トップはじめ管理職も負う必要がある。
報道をはじめとした一般的な論調は、浴槽のお湯の温度確認は介護職員の義務だというものが多いが、介護職員でなくとも、一般人でもお湯の温度を確認しなければならないことくらいわかるはずだ。そもそも自分が入浴する際に、お湯に手を触れ温度を確かめない人はいない。
つまり温度確認は義務以前に、人としての常識と言える問題でもある。そうした常識が通用しない特養ではなかったのか・・・全従業員が利用者は顧客であるという意識を共有し、なおかつ自分たちは対人援助のプロであるという高い意識をもって、お客様におもてなしの精神を込めてサービス提供するという教育は行われていたのか・・・。
こうした事故を起こす施設の特徴の一つとして、従業員にサービスマナー教育を全く行っていないという傾向がある・・・この特養はどうであったのだろうか。
その部分の検証も不可欠である。
そしてそれができていなかったとしたら、この事故の責任は、経営者及び管理職すべてが負うべきものであるといえる。
※別ブログ「masaの血と骨と肉」もあります。お暇なときに覗きに来て下さい。
北海道介護福祉道場あかい花から介護・福祉情報掲示板(表板)に入ってください。
・「介護の誇り」は、こちらから送料無料で購入できます。
・masaの看取り介護指南本「看取りを支える介護実践〜命と向き合う現場から」(2019年1/20刊行)はこちらから送料無料で購入できます。
新刊「きみの介護に根拠はあるか〜本物の科学的介護とは」(2021年10月10日発売)をAmazonから取り寄せる方は、こちらをクリックしてください。