統合・一本化された介護職員等処遇改善加算の従業員への配分は、加算算定事業所の裁量で決定できることになっている。
しかし加算算定事業所以外の職員への配分は認められていないために、居宅介護支援事業所の介護支援専門員(以下、居宅ケアマネと略)は、その配分を受けることはできない。
その為、今年度の報酬改定では逓減性緩和が行われ、担当利用者を増やすことで事業収入を増やして、それが介護支援専門員の月額報酬増に結びつけられるようにされた。
しかしこの改定はについて、「日本介護クラフトユニオン」がアンケートを行った結果、居宅介護支援事業所の75.0%が、「評価できない」と回答し、「評価できる」としたのはわずか3.4%だったと公表されている。
それは当たり前だ。
逓減性の緩和によって、担当利用者数を増やすことができるといっても、その分だけ仕事量は増えるわけだ。仕事が増えて給料が上がるのは当たり前である。しかし丁寧なケアマネジメントにはそれなりに時間がかかるし、感情労働である居宅介護支援は、利用者と向かい合って意思疎通する時間を安易に削ることはできない。
介護保険制度施行時は、利用者標準件数が50件で、それだけのケース担当者を抱えていた居宅ケアマネも少なくなく、逓減性の緩和と言っても、その当時に近い件数を受け持つことができるようになっただけではないかという意見もあろう。
しかし当時と比較すると居宅サービス計画書に結びつける各サービス事業の要件も複雑化しており、そもそもケアマネジメントそのものに対し、より高い質が求められているのだ・・・つまり利用者一人一人に対するケアマネジメントに掛ける時間は大幅に増えているのだから、過去の標準件数と比較するのはナンセンスである。
その為、逓減性の緩和を利用して収益を増やすことは、無理に無理を重ねないと実現できないことであり、それは居宅ケアマネの身体と精神をむしばみかねない方策でもある・・・少なくとも安易に逓減性緩和を活用しろとは言えない問題なのだ。
だからこそ居宅介護支援費の引き上げが求められるわけであるが、このことに関して、厚生労働省老健局の古元重和・老人保健課長は、日本ケアマネジメント学会第23回研究大会(6月:横須賀市)で行った講演の中で、「『処遇改善加算がついていないじゃないか、ケアマネ事業所は』というご指摘もあるが、そこは基本的には、基本報酬の中で、全体の収支差を見ながら配分している」と述べたうえで、「厚労省は処遇改善さえすればいいとは決して思っていない。職場の環境改善、これこそが重要だと思っている」とも語った。
おいおいこのおっさん随分上から目線で、めっちゃ適当なことを言っているな・・・。
基本報酬の中に居宅ケアマネの処遇改善分が入っているというが、今年度の居宅介護支援費の改定率は、要介護3でみてわずか0.92%でしかない。それは物価高で居宅介護支援事業所の運営経費が引き上げられた分にも足らず、ここからさらに居宅ケアマネの給与を上げるなんて至難の業である。
「職場の環境改善、これこそが重要だ」というが、それもこれも仕事に見合った給与が支払われていることが前提だろう。年収何千万ももらっている官僚が安易に口にすべき内容ではない。
居宅ケアマネの給与が、本当にその業務内容に見合っているのかを考えたとき、参考になる数字がある。介護労働安定センターが今月10日に公表した最新の「介護労働実態調査」による、「主な介護職の平均月給」で示されている額を下記の表に落としてみた。

これをみて解かる通り、ケアマネはサービス提供責任者より下回っているのだ。
(※通常月の月給=ボーナス、残業代、休日出勤手当などを含まない。交通費など毎月決まって支払われる各種手当は含まれる。税金や保険料が引かれる前の“額面”で、いわゆる“手取り”ではない。)
地域の高齢者にとって、総合相談窓口ともいえる専門職がこの給与レベルでは、現在他職種として働いている若者が、将来ケアマネとして利用者の暮らしを支えようという気になるとは思いづらい・・・。
自分が暮らしに困ったとき、どんな問題であっても相談できる担当者が存在するということは、要介護高齢者にとって何より安心できることだ。そういう意味で居宅ケアマネの存在によって、日本の福祉の底辺は確実に引き上げられているのだ。
そうした職種に対して、国はもっと優しい眼差しを向けても良いのではないかと思う。
官僚と比較すれば、取るに足らないほどわずかな給与しか支払われていない職種に対し、職場環境の改善の方が重要などと切り捨てるような発言をすべきではない・・・その発言の背景には、「居宅ケアマネという職種は、厚労省が作ってやったんだ」という思い上がりが見え隠れする。
今、日本の様々な地域で、担当居宅ケアマネがみつからないことで介護難民が発生することが心配されるほど、ケアマネの成り手が少なくなっているという現状を理解し、もっと真剣に居宅ケアマネの待遇改善の具体策を示すことが、国に求められていることだと思う。
ケアマネを切り捨てるような発言をする課長など、存在意義がないと思う。
※メディカルサポネットの連載、「菊地雅洋の波乱万丈!選ばれる介護経営」の今月更新記事は、「科学的介護情報システム(LIFE)の現状と課題」です。


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