生産年齢人口の減少に歯止めのかからない我が国では、あらゆる産業で労働力不足が加速する。
その為、介護人材不足も解消の目途が立たないため、人手が減っても必要最低限のサービスが提供できるような工夫が、あらゆる場面で求められてくる。
その一つの対策が介護DXによる生産性の向上であるが、その為に必要になることは職場環境の整備である。
まずは職場の整理整頓を行わなければならない。乱雑な職場では、資料を探すにも時間が必要になる。それこそが無駄な時間と言える。だからこそ5S活動(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)を行い、何がどこにあるか、すぐに把握できるようにする必要がある・・・これができていない介護事業者は結構多い。
事務所の各自のデスクは乱雑にものが置かれていないか。ケアワーカーの拠点となるサービスステーションは利用者情報をすぐに手に入れられるような状態になっているか。控室は清潔で整理整頓ができているか、分煙はきちんとできているか・・・それらを確認・整理することが先決だ。
こうした職場の整理整頓を基本としながら、人の労力を減らすことができるテクノロジーを活用することが大事だ。
現場スタッフへ指示を出す際、インカムを活用するとタイムリーな情報共有が可能であり、その活用を図ることが重要であることは、このブログで再三指摘してきた。情報伝達のために、わざわざ歩き回る必要なんてないのである。
その他にも以下の見直しを行ってほしい。
1.見守りセンサー・自動体位交換機・高性能紙おむつなどを導入する。
2.ICTツールの活用〜電子カルテシステムを活用することで転記や重複する作業を減らし、検索機能を用いて過去の記録を抽出することも可能とする。
3.職場環境の整備〜必要ないものは早期に破棄することも大切。置き場所が決められておらず、床に物が置かれているような状況をなくす。
職員間のおしゃべりなどの無駄な時間をなくすことも重要である。
さらにマルチタスクをできるだけ減らし、シングルタスクに心掛けることも大事だ。
介護の場で良くありがちなこととして、重度の認知症の方の対応をしながら、他の業務で手を動かし続けるなど右脳と左脳をフル回転せざるを得ない事もあったりもする・・・しかし、こうしたマルチタスク型の体制は、一つ一つのパフォーマンスが悪くなる可能性が高い。
仕事全体の生産性を考えるとマルチタスクでの作業は生産性が長続きしないのだ。
では、どうするか?出来るだけシングルタスク型に近づける事が必要で、認知症の人に対応しながら他の仕事をするのではなく、他の仕事の手をいったん止めて、認知症の人の対応に集中すべきだ。
他の作業の手が止まったとしても、対応する認知症の方は、そのことでより短い時間で落ち着いてくれる。そうなった後に、手が止まっていた他の作業にかかればよい・・・トータルで見れば、その方が仕事の効率は良くなる。
このように認知症の人に対するコミュニケーションに時間を掛ければ、その掛けた時間は貯金のように貯まるのである。
しかもきちんと対応してくれた人は、認知症の人にとって「良い人」と認識される。エピソード記憶が失われている人であっても、感情の記憶は残るため、「良い人」と認識された人が、良い人と認識している認知症の人が混乱しているときに接した際に、さして時間を掛けずに落ち着いてくれたりするようになるのである。(参照:あなたが何度も言っていることでも、認知症の方は初めて聴くことです。)
愛をかけずにおざなりに対応するだけの時間は流れ、失われるだけになるが、愛を積めば時間は貯まるのだ。中長期的に見ると、そのことで介護の生産性は向上する。
このように利用者対応にパワーを集中して投下できる状態にしていく事が大事であり、対人援助の仕事におけるタイムマネジメントでは、こうした考え方が重要になる。
逆に介護の仕事で時間短縮をしようと考えると、利用者の介助まで短縮しようとしてしまいがちになるが、それは機械的作業をこなすだけの結果に陥り、利用者の心身の状態も悪化し、対応する職員のパフォーマンスも下げる結果になる・・・それは最も誤ったタイムマネジメントと言える。
その悪しき例が「アクシストシステム」である。
我が国のに介護事業で最初に、「生産性向上」という考え方を取り入れたのは、かつて西日本最大の介護事業者だったメッセージという会社である。その方策として、メッセージは傘下のすべての事業所で、介護業務を15分単位のタイムスケジュールの中に組み入た「アクシストシステム」を取り入れ実践させた。
そこで従業員は、分刻みでスケジュール化された自分の業務をこなすことで手いっぱいになり、他従業員との協力・協働ができなくなり、利用者の声やニーズは無視されることになった・・・その結果が、川崎老人ホーム連続殺人事件にもつながり、メッセージ参加事業所の一連の虐待事件にもつながって、同社は介護業界から撤退せざるを得なくなったわけである。(参照:業務効率化に偏った生産性向上は人の心を壊します)
その過ちを繰り返してはならない。
私たちの職業とは利用者に向かい合って、言語的コミュニケーションあるいは非言語的コミュニケーションを交わすことで成り立つという基本を忘れてはならないのである。
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