静けさに満ちた日常の中で、穏やかな終末期を迎えることをイメージした言葉が、「サイレント・ブレス」です。
それは自分や誰かの人生の最終章を大切にするという意味です。
人生の最終章とは死ぬために存在するのではありません。ひとりの人間として、最期まで自分らしく生きるために存在する時間を人生の最終章と呼ぶのです。
だからこそ「静けさ」というのは、寂しく孤独な様(さま)を表すものではないのです。音もない暗闇で過ごすことではないという理解が必要です・・・。
医療機関や介護保険施設等で、終末期支援と称して真昼間に遮光カーテンを引いて、訪れる人の姿も稀な状態で、暗く寂しくした部屋を創り出してはなりません・・・傍らに誰もいない状態で、ひっそりと息を引き取らせることがサイレント・ブレスではないのです。
静けさとは心模様を表しているのです。心が静かな状態・・・心が穏やかな様を云うのです。

人が不治の病に直面した時、様々な心模様が生じます。
最初は自分が死ぬなんて嘘だと否定し、次に自分がなぜ死ななければならないのかと怒り、さらに死なずに済むために何かできないかと取引きを試み、やがて打ちのめされて何もできなくなる段階を経て、やがて死を受け入れるというプロセスを、「否認」・「怒り」・「取引き」・「抑うつ」・「受容」という言葉で表します。
しかしうまくこの段階を経るケースは、そんなに多くはありません。
「怒り」と「抑うつ」が繰り返されるケースも少なくないのです・・・死は誰にとっても未経験で得体のしれないものだから、それは仕方がないことでしょう。
死ぬことに対する恐怖や不安に精神を病んでしまったまま、息を止めてしまう人がいるという現実とも向かい合わねばならないのが、看取り介護なのです。
だからこそ私たちは考え続けなければなりません。
死に向かい合う人にどのように寄り添って、どのような形で手を差し伸べて、心穏やかに息を止める最期の瞬間まで生きることができるお手伝いができるのかを考えながら、今そこで人生の最終章を生きる人に、最善と思える方法で寄り添う必要があるのです。
例えば胃婁・・・誤嚥を防ぐために胃婁を造って直接胃に栄養剤を流せば良いと考えます・・・しかし人の体は理屈通りに動いてくれません。胃に流動食が入ると消化器系全体の反射が起き、自然に分泌される唾液で誤嚥が起き、誤嚥性肺炎を繰り返すことになります。
そうなったら胃婁は、旅立つ時間をいたずらに引き延ばして、その分終末期の人を苦しめるツールにしか過ぎなくなります・・・誰かがそのような胃婁からの栄養補給をやめるという決断をしてあげなければなりません。
点滴も同じことです。緩和治療としての水分補給が必要な時期には点滴が有効です。しかしそれにも限界があるのです。その時期を過ぎた点滴は、喀痰吸引が必要になる痰を製造するだけで、手足をむくませて人を苦しめるものにしかなりません・・・目の充血や手足のむくみといった状態に注意し、お別れの時期を見極める終末期支援が求められることを理解せねばなりません。
それは命をあきらめることではないのです。自然死という安らかな旅立ちを邪魔しないことなのです。
点滴をやめた体は、一層軽くなります。死期は早まるでしょう。そのかわり不快感も消え、体は楽になっているのです・・・その時、表情を見て気づきます。和らいでいると・・・。
私たちはこの世で大きなことはできません。でも小さなことを最大限の愛をこめて行うことはできるはずです。
終末期を迎えた人は、意識が薄れて反応が少しずつ鈍くなる様子が見て取れます。しかし聴覚や嗅覚は十分機能していることも多いのです。話しかけたり、素敵なにおいのお花を飾ったりすることは決して無駄ではないと思います。
終末期を迎えた人も、ささやかな望みは必要なのです。この世から旅立つ前に、やりたいことをして、食べたいものを口にする・・・残された機能を使ってできるわがままを実現させてあげたいものです。
死とは人生の終焉ではありますが、決して敗北ではありません。それは自然の摂理であり、人としてこの世に生を受けた以上、避けて通れないものである。
そこに至る過程が、逝く人にとってどのようにすることが最善なのかを考えるヒントがサイレント・ブレスの捉え方なのかもしれません。
愛をこめて・・・。
※CBニュースの連載、『快筆乱麻〜masaが読み解く介護の今』は6/27:午前5時に更新アップされています。今回のテーマは、「介護DXによる生産性向上の光と影」です。文字リンク先を参照ください。

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