介護事業者に対する社会の信頼を失わせる元凶となっているのが虐待事案である。

だからと言って大多数の介護事業者が虐待を行っているわけではないし、ほとんどの介護事業者は高齢者の暮らしを支える支援に努めていることは間違いない。

しかし虐待とは無縁であると思っていたその場所で、ある日一人の特定職員が信じられない虐待行為に及ぶこともある。だがそれは、利用者の尊厳を奪い、時には命さえ失わせるという、取り返しのつかない結果に結びつく。

そしてそのことは介護事業全体に対する世間の信頼を損ない、介護事業必要悪といった世論に結びつく・・・それは事業経営の危機に直結するだけではなく、介護給付に財源を支出することの足かせになりかねない問題でもある。

そうした社会的影響や、重大なる事案の結果や責任を考えると、虐待に結びつく要素を限りなく少なくするための対策にやりすぎはないと考えなければならない。

勘違いしてはならないことは、虐待しないのは良いことではなく当たり前であるということだ。

だからこそ虐待をしてはならないという教育ではなく、どんなふうに意識が低下し、虐待に結びつくのかということをもっと伝えなければならない・・・集団生活であるなどというサービス提供側の勝手なルールの押しつけが、不適切サービスに繋がり虐待を生む温床にもなることを強く従業員に意識させ、介護事業も歴としたお客様に対するサービスであるとして、その際に必要なマナー教育を徹底すべきである。

そのことは「虐待防止措置未実施減算が新設されたという恥」でも指摘している。
虐待という介護の闇
しかし道内の特養でまたもや恥ずべき虐待事件が発生した。

昨日事件概要がネット配信されたので、それを転載する。
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HBC NEWS 6/6 19:33ネット配信記事より
北海道函館市の高齢者施設で、元職員の男が、97歳の女性入所者の顔をひざ蹴りし、鼻を骨折させた疑いで逮捕されました。

傷害の疑いで逮捕されたのは、函館市日吉町の無職、石垣寛和容疑者27歳です。

警察によりますと、6月3日、石垣容疑者は勤務していた函館の特別養護老人ホームで、97歳の女性入所者の顔をひざ蹴りした疑いが持たれています。

女性入所者は、鼻の骨を折る重傷です。

施設によりますと、女性入所者は、重度の認知症で歩行が困難ですが、深夜、ベットから降りて這いずって、ホールに移動していました。

そこへ石垣容疑者が来て、ひざ蹴りをしたということです。警察の調べに石垣容疑者は「故意でやったことではない」と容疑を否認しています。(転載ここまで
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事件が起きたのは社会福祉法人函館鴻寿会・ケアステーションこうじゅ地域密着型 特別養護老人ホームこうじゅである。

文字リンクを張り付けた公式サイトには、今現在まで事件概要や謝罪文が掲載されていない。本来なら事件報道が出る前に、取材を受けた段階で経緯と謝罪を掲載すべきである・・・公式サイトが何のためにあるのかということも考えてほしい。

容疑者は故意の暴行ではないと供述しているようだが、施設側が防犯カメラの映像を確認したところ、同容疑者が居室を出ようとする女性を蹴る様子が写っていたとのことで、言い逃れはできないだろう。

認知症の人が深夜に這って徘徊することにイラついたのだろうか・・・しかしそれは利用者を膝蹴りして怪我をさせるという非道な行為に及ぶ理由にはならない。

密室化した夜間にこのような行為に及ぶ兆候は、この容疑者にはなかったのか、何を見逃していたのかという検証作業が不可欠だ。

そもそもこの法人・施設における、従業員の利用者対応はどうなっているのだろう。

日ごろからしっかり顧客に対するサービスマナーが徹底され、タメ口対応が行われていなければ、このような状態になるはずがないと思う。

そういう意味で、事件後にどういう対策がとられ、今現在、利用者対応がどのような状態になっているのかを確認したいところである。

介護事業経営者や管理職の方々には、この事件を対岸の火事と見ずに、自分の経営・管理する施設や事業所に、不適切対応と虐待につながる要素が見逃されていないかを考えるきっかけにしてほしい。

繰り返しになるが、虐待防止対策にはサービスマナー教育は不可欠であるし、そうした教育にやり過ぎはないのである。


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