少子化に歯止めがかからない我が国では、労働力が現在より減り続けることが確実であり、介護事業の人材不足も解消の目途がない。
その為、介護事業人材を増やそうとする対策どころか、現在より人材を減らさないようにする対策も不可能となり、人材は減り、不足するということを前提にした対策が必要になっている。
その為に必要とされるのが介護DX(デジタルトランスフォーメーション)=IT技術を人・組織・社会に活かす変革である。
だが勘違いしてほしくないことは、DXの主役はテクノロジーではなく、人間であるということだ。
つまり介護DXとは、介護職員等が中心になってITテクノロジーを使いこなし、それにより生じた効果を十分に活かせるように、介護ビジネスモデルや組織体制、働き方を良い方向に変えていこうとするものである。
そしてその目的は、「介護事業における生産性の向上」である。
当然のことながら生産性の向上とは、効率よく結果を出すことであり、介護に生産性向上を求めるという意味は、ひとり一人の介護職員が効率よく介護の結果を出す=今より少ない人数と時間で、要介護者のケアを完結するという意味に他ならない。
見守りセンサーやAI搭載ロボットを活用して、介護職員の仕事がやりやすいように変えて、今より少ない人員配置で、できる限り時間をかけずにケアを完結しようとしているのだ。
この具体策として行われているのが、見守りセンサーやインカム等を一定台数以上設置した介護保険施設や居住系施設において、夜勤職員の配置人数を緩和するというものである。緩和というと聞こえは良いが、要するに夜勤者の人数を減らすということだ・・・今後は、この配置人数緩和を日中を含めて全体に及ばせていこうというのが介護DXの目指すところである。
しかしこの具体策には大きな矛盾が生じることに気づいている人は何人いるだろうか・・・。
生産性を高めた結果、従前より少ない人数で同じ仕事を完結させようとすれば、場面場面を切り取るとワンオペ勤務が増えることになる。
施設サービスの場合、同時間に複数の介護職員が勤務していたとしても、それらの職員はフロアごとに分かれて仕事をすることが多いため、日中時間帯であってもフロア内ワンオペ状態になることが多い。生産性を高めるため、あるいは高くなったと判断した結果、配置人員を削るとこうしたフロア内ワンオペ勤務は増えることになる。
仮に個人の生産性が上がったとしても、ワンオペが増えることでそのノウハウは受け継がれることなく消滅し、結果的に組織としての生産性は下がると云われている・・・国はこうした矛盾にどう答えるのだろう。
さすれば介護という人に向かい合う仕事において、生産性向上は無理がある方向性ではないのだろうか。ないものねだりを目指しているのではないだろうか。
いくらテクノロジーを使いこなしても、そこで起きることは生産性の向上による新しい介護=科学的介護ではなく、利用者の不満も苦痛も無視した、サービス提供側の都合による機械的介護でしかないのではないだろうか。
そこでは利用者本位という言葉は、限りなく形骸化していくのではないか。
そして近い将来の日本の介護は、個別ニーズを顧みない集団ケアでしかなくなると云えるのではないだろうか。
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