介護業界・・・そしてそこで働く人々・・・決してそれらすべてが純粋無垢で、穢れがまったくないわけではない。
場合によっては、利用者から搾取することしか考えていない介護事業経営者によって、介護という名の闇の中に深く閉じ込められ、悲惨な暮らしの中で孤独な死を迎えざるを得ない人を生み出したりしている。
繰り返される介護事業者における虐待の数々も介護の闇の部分であり、汚いエピソードも決して少なくはない。
働く人の置かれた環境も様々で、ボランティア残業が当たり前とされる事業者もあり、待遇も社会の底辺に近い状況で、休みも満足に取れずに働かされている人も少なくない。それはあたかも経営者が従業員から搾取するかのような醜い経営スタイルである。
このようにこの国の介護業界は、多くの矛盾と欠陥を抱えている。
だが決して綺麗事だらけではない介護業界で、献身的に利用者に寄り添う人がいることも事実だ。
彼らは必ずしも公平ではなく、満たされているとは言えない環境下で、歯を食いしばり、身を挺して厳しい仕事に打ち込んでいる。
そういう人々が何万人もいるのも事実なのだ。
彼らは職場での地位が上がったり、誰かから賛美されたりするのを願ってそうしているのではない。
彼らを、肉体的にも精神的にも過酷な職場に繋ぎとめているのは、何よりも使命感なのだ・・・いきすぎた使命感は、確かにある種の横柄さを感じさせるし、権力誇示(けんりょくこじ)もつきまとう。
だが体の芯から冷え込む寒い夜や、そぼ降る雨の中であっても利用者宅を訪問し、白い息を吐き、凍える指先を温めながら地域を巡回したり、人が寝静まっている夜中に、一人でたくさんの施設利用者のケアをワンオペ状態で続けていられるのは、権力や金銭に対する憧れではない。
誰しもが眼をそむけたくなる汚物に向かいあい、悪臭に耐え、吐き気と闘いながら、短い睡眠時間と疲れ切った体に鞭を打って、誰かの身の回りの世話を行い続ける理由は、誰かから信頼と尊敬を得られると約束されているからではない・・・むしろそのような期待は裏切られることの方が多い。
彼らを動かしているのはすべて、「この仕事をするものが社会に必要なのだ」・「そして自分はそれをすべきである」という使命感にほかならない。
たとえ介護関係者以外の誰一人も認めないとしても、彼らは介護という職業に誇りを持っている。その誇りとは、自らに対する誇りであり、その誇りを失えば仕事を続けられなくなるだろう。
そのような使命感やプライドに頼ってはならないことは言われるまでもない。介護経営者であれば、それに見合った対価を渡す努力をしなければならないこともわかっている。
しかし決して楽をして金を稼げる職業ではない介護の仕事には、使命感を抱くという、そうした部分も必要だと思う。
介護という仕事は、心身が不自由で自分の不利益を他者に訴えることができない人に向かい合うという一面がある。その時には介護者自身が何をすべきか、そのすべての決定権を持つことができるケースが多々あることから、それを権力だと勘違いしてしまうリスクがある。そしてそのように誤解したとき、とめどない腐敗が生じ始める。
そうした密室における決定権を、権力であると誤信している介護支援者がいないわけではない。腐ったミカンの方程式のように、どんな組織であっても、尊厳を失っている、あるいは誤った考えの持ち主は存在する。
腐敗した介護支援者は、多くの場合、介護という職業に対してよりも、所属する、あるいは所属していた介護事業者という組織そのものに絶望し、そのことへの不満が腐敗の原因をつくっている。
しかし腐敗した理由に、一片の正論があろうとも、腐敗したという事実そのものが負けである。そこから正義は生まれない。だから腐ったミカンは箱から取り出し、捨て去らねばならないのだ。
そうしない限り、その腐れに侵されるのは介護サービス利用者になってしまうのである。
そうしないために、私たちは介護という職業に使命感を持って関わり、利用者の暮らしを支える必要があるのだ。
介護サービス利用者を支えること・・・それは国を支えることと同じ意味だ。
国は見えない。だが利用者は見える。ひとり一人のために、ひとり一人が働いている。どれほど目立たない、どれほど地道で、毎日同じ繰り返しで終わりのない行為であっても、それがひとり一人を支えている。
人は自分のための人生を歩む。自分と自分を取り巻く、家族や友人の小さな輪の幸福を願う。幸福はしかし、収入や地位、権力のみではない。自分に問うこと、自分の存在、自分の歩いてきた道が、誰が決めたものでもない自分自身のルールを逸脱していないかどうか・・・ルールに外れていないことを確信することもまた、幸福をもたらす。
僕は自分のためにソーシャルワーカーとなった。その中で社会福祉援助の専門職としてのルールを外さなかったことは誇りであり、幸福である・・・そう言える仲間を、少しでも多く創りたい。
そういう後輩を一人でも多く育てたい。
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