今年度の介護報酬改定では、ほぼすべてのサービス横断的に高齢者虐待防止措置未実施減算が新設されており、それは我が国の介護事業者の民度の低さの象徴ではないかということを先月論じた記事を書いた。(参照:虐待防止措置未実施減算が新設されたという恥

そんな折も折、残念なことに道内・函館市の特養で虐待が行われていたとの報道がされた。NHK 北海道 NEWS WEBに昨日配信された記事の内容を下記に転載する。
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NHK 北海道 NEWS WEB 5月14日 19時48分配信記事
ことし3月、函館市の特別養護老人ホームで、入所者の体に複数の不自然なあざが確認され、虐待が行われた可能性のあることがわかりました。市が関係者から聞き取りを行うなど詳しく調べています。

市が調べているのは、函館市釜谷町にある特別養護老人ホーム「潮寿荘」です。
関係者への取材や情報公開請求で入手した資料によりますと、ことし3月、この施設に入所する86歳の女性の胸や脇の近くに打撲の痕のような複数のあざが確認されていたことがわかりました。
施設側の聞き取りに女性は、特定の職員の名前を出し、「この人の介助はもう嫌だ」などと訴えたということです。

市は女性がみずからぶつけて出来るあざではないことなどから、特定の職員が夜間や早朝などに虐待を行った可能性があるとみて詳しく調べています。

また、この施設では去年10月、職員が夜勤中に酒を飲み、入所者に決められた量の薬を与えないなどずさんな介護を行った上、その事実を同僚と口裏合わせをして隠そうとしていたこともわかり、市は、十分なケアをしないネグレクトの疑いでも調べています。

特別養護老人ホーム「潮寿荘」の柏原美之施設長は、NHKの取材に対し、「関係者に謝罪を行うとともに、防犯カメラを導入するなど再発防止策を検討しています。市の調査には協力していきます」と話しています。(転載ここまで
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虐待が行われた潮寿荘
※画像は虐待が起きた特別養護老人ホーム「潮寿荘」
本件の虐待の半年前には、夜勤者2名が飲酒していたという。これは普通の職場では考えられない大事件で、コンプライアンスに重大な欠陥のある職場と言われても仕方ないだろう。

事件を起こした特別養護老人ホーム「潮寿荘」の母体である社会福祉法人 戸井福祉会の公式Webを見ると、この特養は入所定員50人+ショート定員2人となっている。すると前年度の入所+ショートの利用者平均が50名以下であれば、夜勤者は2名でよいことになるが、その2名の夜勤者が酒を呑んで業務放棄していたということだ。

これはネグレクトというより、もはや職場放棄であり、懲戒免職とすべき由々しき問題である。そのような勤務実態があるということは信じがたいことで、法人内で由々しき事態として改善の取り組みを行っていることと思うが、いったいどうのような改善策がとられてきたのか・・・。

普通の職場ではあり得ないひどい勤務実態があったということは、この施設の職場風土が乱れに乱れていたと云わざるを得ない・・・これほどの重大事件が起きるような職場の意識と環境を改善するためには、相当の覚悟を持った大手術が必要である。

そのような中で今回さらに利用者の身体にあざを創るほどの虐待行為が繰り返されたということは、半年前の事件を踏まえた意識と環境の改善策が十分取られていなかったということになり、この法人の意識の低さは非難されてしかるべきだろう。

現時点で社会福祉法人 戸井福祉会の公式Webには、昨年10月の飲酒事案をはじめ、今回の虐待経緯や謝罪文を載せていないことも当事者意識の低さをあらわすものと言わざるを得ない。

取材に応えている施設長の口にする虐待再発防止策が「防犯カメラ導入」であるというのも情けない・・・監視体制の強化でしか虐待を防止できないというのか・・・このような対策が一番に口にされるという状態である法人は、社会福祉法人の体をなしていないと思う。

もう一度社会福祉法人 戸井福祉会の公式Webを読んでみると、ここには『人間愛』が一番の理念に掲げられている・・・空しい看板である。

昨年のネグレクト疑い事案から、今回の身体への暴力が疑われる虐待という経緯を考えた場合、法人理事長・施設長という両トップの責任は重たい。お詫びして終わりでは済まされないケースだろうと思う。

このような職場を正常な状態に戻すには多大なエネルギーを要する。何より入所者を顧客と意識して接するサービスマナー教育が必然である。それも実効性のある、実務に生かせるマナー教育でなければならない。

全ての介護事業関係者は、こうした事件を対岸の火事として眺めるのではなく、自らの職場をこうした劣悪な職場にしないために、日ごろから従業員に対してサービスマナー研修を行っておかねばならない。

そのことが利用者の人権と尊厳を護る対応に繋がっていくのである。少なくともサービスマナーが徹底された職場で、虐待が起こることはないのである。


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