枯渇する介護人材対策として介護DXの必要性が叫ばれ、ICT等のテクノロジーを最大限活用することで、人の配置を少なくできないかという議論が続けられている。

介護保険施設等の配置基準緩和も、その一環として行われていることであり、その中には介護保険施設の看護・介護職員の配置基準である、対利用者比3:1の基準を4:1程度まで緩和できないかという議論もされてきた。(参照:看護・介護職員配置基準緩和の危うさ

おそらく今後も、この配置基準緩和は繰り返し議論の俎上に挙がり、現行より緩和した配置基準への変更が模索されていくのだろう。

だが仮にこの配置基準が緩和されたとしても、介護保険施設は、喜んで職員配置数を減らすことにはならないと思う。

そもそも現行の配置基準である対利用者比3:1ぎりぎりで看護・介護職員を配置している施設はほとんど存在しない・・・そんな配置では、有給休暇が消化できなくなるだけではなく、日常業務もうまく回らず、介護職員は残業するのが当たり前の状態になってしまうからだ。(※ブラック施設では、この残業の手当もつけずに、サービス残業を強いる形で行わせている
疲弊する介護現場
僕が総合施設長を務めていた社会福祉法人では、介護職員も事務職員と同様に、きちんと有給休暇を消化して、なおかつ日常の業務も勤務時間内で余裕をもって行えるようするために、僕が施設長を拝命した以降、順次介護職員の補充に努めたことから、ユニット型ではない従来型特養(多床室中心型)であるにもかかわらず、対利用者比2:1の配置まで介護職員数を増やして対応していた。

勿論、そのために単年度赤字が出ては困るので、(※短期入所生活介護を含め)特養のベッド稼働率を低下させないための対策や、通所介護の利用者数の増加に努め、経費の削減にも努めてきたわけである。

配置職員も正規職員以外に、準職員・パート職員・夜間専門職員等、多様な勤務形態で忙しい時間帯に対応できるように工夫を重ねてきた。介護助手という言葉がないことから、実質的に助手も雇用配置していた。(参照:介護助手議論がなぜ馬鹿馬鹿しいか

しかも利用者ニーズに即した対応を考えると、そうした配置も利用者属性などで必要性が変わってくるので、これだけの数を揃えたから終わりということではなく、数の上限は定めたうえで、その時雇用している職員を、どの時間帯に、どのような形で仕事ができるようにするかという工夫に終わりが来ることはなかった。

さらに言えば、職員募集に簡単に応募してくれる人がいるわけではない状況が年々すすんでいったので、他の介護施設にはない魅力を発信して、新卒者をはじめとした若者が、募集に応募してくれる工夫もし続けていた・・・そんなふうにして配置基準を上回る職員数を確保してきたのである。

どちらにしても、国の基準配置数だけで適切なサービス提供と、法令(労働基準法など)に沿った適切な労務管理を両立させるのは困難であった。

対利用者比3:1基準というのは、それだけ無理を通して道理を引っ込める形の数字でしかないという理解をすべきだ。

ICT等の活用を図って介護職員の働き方を変えたとしても、削減できる業務は極めて狭い範囲だ。ロボットが人に替わってトイレ介助でもしてくれない限り、数時間も継続して人的配置を削ることができる状況にはない。

よってまともな介護事業経営者なら、配置基準が緩和されたからと言って、その最低基準まで従業員を削減できるとは考えない。

人がいないからと言って、その最低基準に当てはめた経営を続けていれば、必然的に介護職員にしわ寄せが来ることは確実で、うつ病などの精神疾患を含めた健康被害が増すだろう。

人員の削られた場では、日中でもワンオペが増えるのも必然だから、牛丼店すき家で起きたワンオペ中の死亡事故の様なケースも続出するだろう。

その為、益々介護を職業としようとする動機づけを持つ人が減っていくことになる。それだけではなく高校の進路指導担当教員が生徒に介護業界への就職を指せないような指導が増え、子供を介護職だけにはさえまいとする親も増えるだろう。

結果的に配置基準緩和という施策が、介護人材をさらに減らしていくのである。それが施設配置基準緩和策の成れの果てである。

官僚や、基準変更を論ずる委員会構成メンバーは、こうした介護実務の実態や、人に替わる機器がいかに拙いものであるのかという事実を知っているのだろうか・・・知っているのに、知らないふりをしているのだろうか・・・。

そもそも介護労働のワンオペ増加の弊害というものを意識した議論がされているのだろうか・・・。


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