訪問介護員の募集に応募がなく、利用者がいるのにサービス提供できるヘルパー人材が居ないために訪問介護事業所が閉鎖されるケースが相次いでいる。
このように訪問介護員の成り手が枯渇している現状は、「絶滅危惧職種の懸念で基盤が揺らぐ地域包括ケアシステム」でも解説し、そもそも若い人は訪問介護員という仕事を選ばないので、ヘルパーの9割以上が40代であるという問題があることを指摘した。
これは待遇の問題だけが原因ではない。密室化せざるを得ない利用者宅で、1対1の関係で向かい合って臨機応変の対応を求められる訪問介護という仕事には、「人をあしらう」というある程度人生経験が必要な対応が求められるという理由もあろうと思う。
若い女性なら要介護者であったとしても、男性利用者と1対1で対応することに不安を感じる気持ちは容易に理解できる。ましてや対応する利用者や家族が、威圧的な対応をとる人であればなおさらだ。
だからこそ事業者としてカスタマーハラスメントを許さないという毅然とした対応と、それを予防するシステムの構築が求められるわけである。
(※2021年基準改正で、介護事業者のハラスメント対策が義務化された際に、カスタマーハラスメント対策もそこに含まれることになったのは、訪問介護員への利用者の暴言・暴力が問題になったからである。)
しかし、そうした対応をとっても防ぐことが不可能な問題もある。そんなことを考えさせられる事件が先週引き起こされた。
横浜市港北区で16日、利用者宅を訪問した60代の女性ヘルパーが、利用者の息子に包丁で腹などを複数回刺されるという事件が起きている。
幸いヘルパーは軽症で済んだが、「家に入ったらいきなり刺された」と証言しており、ヘルパー業務のために利用者宅に足を踏み入れた瞬間、理由もなく襲われたらしい・・・これでは自分の身を護りようもない。
事件当日、路上で凶器を持ったまま逮捕された容疑者は、「なんでやったかは答えられない」と動機を語っていない。もしかしたら精神疾患があったのではないかとも疑われる。
こうした事件に対して、訪問介護事業者がとり得る対策はあるのだろうか・・・ヘルパーに対してどのように注意すべきか悩む問題でもあり、防ぎようがないと云わざるを得ない。
こうした事件が起きると、利用者宅に訪問するのが恐ろしくなって、ヘルパーを辞めようと考える人が出かねない。
ヘルパー以外の介護関係者も、自分の家族がヘルパーという業務を行っていたら心配になるのではないだろうか・・・自分の子が介護の仕事をしたいといっても、ヘルパー業務だけは避けてほしいと思う人も出てくるかもしれない。
さらに訪問介護のヘルパー業務を忌避する人が出てくるだけではなく、小規模多機能居宅介護などの訪問サービスに従事することも避けたいと思う人が出てくるかもしれない。
そうなれば地域包括ケアシステムは崩壊の一途を辿らざるを得ない。
どちらにしても恐ろしい事件で、こうした事件によってヘルパーの成り手がまた少なくなる恐れもある。
そういう意味では、ヘルパー絶滅に向けたカウントダウンの時計の針を早める事件が起きたと言えるのではないだろうか。
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