僕は複数の出版社から自著本を上梓しているために、プロの物書きとみなされることがある。

今現在も毎月、原稿料収入を得ていることから考えても、そうした見方は間違っていないし、場合によっては作家と名乗っても詐称ではないのだろうと思う。

そんなこともあってか、最近は介護業界誌のみならず、一般の週刊誌等から執筆依頼を受けることがある。週刊○○と聴いてピンとくるような雑誌に、ひそかに記事を書いていたりする。(※おそらく多くの介護関係者は、僕がそのような記事の執筆者であることに気が付いていないだろう

それは当然介護に関連した記事であり、介護業界の内部事情を知る立場の物書きとして依頼を受けるわけである。
虐待介護という闇
例えば介護事業における虐待死亡事件・・・その背景に介護業界の古い体質や因習が存在するのではないかという問題。一見普通の人に見えたり、良い人と評価されている人が、密室化された介護事業所の中で、悪魔のように人を傷つけ命を奪う理由・・・そんなことに切り込んだ記事を数件書いている。

当然そうなると取材が必要になる。裏をとらなければ書けない問題も多いからだ。勿論その際は、原稿執筆料とは別に取材費もいただいて仕事を受けることになる。

そうした取材を行うと、新聞やネットニュースの虐待報道が、いかに表面をなぞった浅い報道でしかないことが見えてくる。そこには表面化した事実はあっても、事件の真相や真実はほとんど存在していない。

昨年、某地域の特養で、利用者の背中を車椅子の背もたれ越しに蹴り、内臓破裂で死に至らしめた介護職員がいた。

内臓を破裂させるほどの強い力で利用者を蹴り殺した男が口にする犯行動機は、「忙しいときにいろいろ頼まれて腹が立った」というものである。介護職員は利用者に頼んでもらってなんぼの仕事ではないか・・・それにいちいち腹を立てて、蹴るという野蛮な行為に及ぶ理由が、単純に利用者の言動に腹が立ったというだけなのだろうか・・・。

果たして被告はどのような人物だったのだろう。

事件直後、当該施設の事務長等は新聞社の取材に対し、「被告は勤務態度は良好で、仕事ぶりも評価されていた」と答えていた・・・そういう人物がなぜ、利用者を蹴り殺すほどの非常な行為に及んだのか・・・。

しかし取材して見えてきたものは、事務長が口にした評価とは異なる被告の姿である。被告の勤務態度が良好であったという評価とは、単に決められた仕事がそつなくこなせるという意味にしか過ぎないことが分かった。

上司や同僚に取材を積み重ねて見えてきたものは、被告の利用者に対する顧客マナーに欠けた日ごろの態度である。

利用者が手を差し伸べてほしいと訴える声を無視したり、ナースコールに応ずる際に荒々しく対応したりする行為もあったらしい。被告の利用者に対するタメ口や舌打ち、下品な声かけは周囲の従業員の耳にも入り、それをストレスと感ずる同僚も存在していた。

しかしルーチィンワークは滞りなくこなせる人物であったために、そのことを注意してへそを曲げて辞められたら困るという意識が上司をはじめ、周囲に広がっていたのである。

つまり本件は、タメ口や節度のない対応に対する注意や指導が行われないまま、業務をこなせることだけを評価した成れの果てに起こったものであると結論付けられる。

このように辞められることを恐れて注意ができないというケースは数多く耳にする。しかしその状態は、本件のような事業継続を危うくするような事件の原因にもなるし、そうした職員の態度を放置しておくことは、志の高い職員をバーンアウトさせることにもつながりかねない。

サービスの品質などそこには存在しなくなるだろう。

そもそも不適切な勤務態度に対して、注意も指導もしない結果、それで人材が充足した事業者がっ存在するのだろうか・・・そんな事業者があるということを、僕は一度も耳にしたことがない。

正当な指導に腹を立てて辞める人物は、そこに必要がない人物なのである。辞めてくれればラッキーなのだ。

そういう経緯を積み重ねて、志が高い人材が定着することによって、はじめて人材は充足するということを忘れてはならないのである。

そして顧客に対するサービスマナー意識のない従業員は、本件のような事件をいつ引き起こさないとも限らないし、そうした従業員の態度を放置し許しておく介護事業者は、そのしっぺ返しとして、社会的・道義的責任を負うということを理解せねばならない。

従業員にサービスマナーを浸透させない場所で、利用者の人権を護るという意識など生まれないのである。それはもう対人援助とは程遠い、人権蹂躙の密室と言わざるを得ない。


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