介護保険施設の中で、唯一特養には夜勤者配置に加えて宿直者の配置義務が課せられている。

これは介護保険制度以前の措置制度時代に、東京都東村山市の特養の火災事故を受けて、老人福祉法の関連通知「社会福祉施設における防火安全対策の強化について」により夜勤者とは別に、夜間帯に宿直者の配置が必要とされたことを引き継いで、介護保険制度施行以降も特養にだけ課せられ続けている義務である。

この義務は2015年度の基準改正で、プチ見直しが行われているが、その内容とは「夜勤職員が加配されている時間帯については、宿直員の配置が不要となる」というものでしかなく、夜勤帯全時間帯を通じて配置基準より夜勤者を加配できていない特養は、宿直者を置き続けなければならなかった。(参照:特養の夜間宿直配置基準の変更は意味のない変更だった
夜間宿直廃止は特養にとって朗報
ところが令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1)(令和6年3月15 日)の107頁に、宿直者配置義務をなくすという画期的なQ&Aが掲載されている。

【特別養護老人ホーム】 ○ 宿直員の配置について
問 178 :特別養護老人ホームにおいて、夜勤職員とは別に、宿直者を配置する必要があるか。

社会福祉施設等において面積にかかわらずスプリンクラー設備の設置が義務付けられるなど、消防用設備等の基準が強化されてきたことや、他の施設系サービスにおいて宿直員の配置が求められていないこと、人手不足により施設における職員確保が困難である状況等を踏まえ、夜勤職員基準を満たす夜勤職員を配置している場合には、夜勤職員と別に宿直者を配置しなくても差し支えない。ただし、入所者等の安全のため、宿直員の配置の有無にかかわらず、夜間を想定した消防訓練等を通じて、各施設において必要な火災予防体制を整えるよう改めてお願いする。
※「平成 27 年度介護報酬改定に関する Q&A(Vol.1)(平成 27 年4月1日)の問 137 及び問138 は、削除する

特養の宿直者の廃止は、介護保険部会でも介護給付費分科会でも議論の俎上にあがっていなかったはずだ、それが今回突然Q&Aで廃止の方針が示されたため、驚いた人がほとんだだろう。しかしこれは特養経営者にとって大朗報だ。

多くの特養では宿直者を配置しているといっても、夜間に数回見回りをして、それ以外は電話番をするだけの役割しかない。しかも見回りといっても設備の見回りに過ぎず、入所者の様子を見回って対応することはないため、夜勤者の労務負担が宿直者の配置によって減っているという実態もほぼないと言える・・・前述したように、その配置義務は夜間の火災事故などの緊急時に備えたものなので、平時には役割と仕事がほとんどなったのである。

そのため僕が総合施設長を務めていた特養では、シルバー人材センターと契約して、高齢者を宿直員として配置していた。

だがそこには当然、シルバー人材センターの経費や、毎日宿直する人の給与とするための経費などを含めた相応の契約料が発生していた。その経費も年間200万円〜300万円もしくはそれ以上となっており決して少額ではないだろう。

しかしそれに見合った仕事をしてくれているかという問いかけには、正直うなづけないものがあった。宿直配置がなくとも、夜勤業務は滞りなく回る施設が多いと思う。

今回人手不足を理由にして、こうしたほとんと意味のない配置義務がなくなったことは朗報といってよいだろう。

宿直者を配置している特養の経営者は、早速その配置をやめる準備を進めて、物価高に対応した経費の節減に結びつけるべきだと思う。

勿論、宿直者を直接雇用しているにしても、外部業者等に委託配置しているにしても、4月以降の雇用契約は締結済みのところが多いのだから、いきなり宿直者を廃止するわけにはいかないだろう。

僕が以前勤めていた法人のように、シルバー人材センターとの契約なら、2024年度は契約通り配置を続けなければならないかもしれない。激変緩和も必要なのだから、それはそれでよいと考えればよい。

そうであったとしても2025年度以降は宿直廃止が可能である。介護給付費の額が変わらない3年間のうち、残りの2年の宿直配置のための支出が減るのは経営上大きい。

また宿直者が直接雇用職員であれば、これを機会に介護助手などに移動を命ずれば良いと思う。それは労働法規上、許される範囲の移動命令である。それを拒んで退職する人がいても、それは事業経営上は大きな問題ではないだろう。

どちらにしても、この対応は早急に進めるべきだと思う。


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