介護施設において、法的措置として身体拘束が原則禁止されたのは、介護保険法にその規定が記されたことによってである。
つまり2000年4月の介護保険制度施行と同時に、介護保険施設では身体拘束を行ってはならないと規定されたのだ。(※例外規定有り)
それに伴って身体拘束をなくすための、「身体拘束ゼロ作戦」という取り組みが進められ、身体拘束原則廃止の事業も、随時拡大されてきた。
それから早24年。もはや介護事業者における身体拘束は、禁止の掛け声さえ必要ないほど、なくて当たり前になっていてもおかしくはない・・・ところが、2024年度の介護報酬改定・基準改正の中で、「身体的拘束等の適正化の推進」がテーマの一つとして挙げられている。
そして短期入所系サービス及び多機能系サービスについて、身体的拘束等の適正化のための措置(委員会の開催等、指針の整備、研修の定期的な実施)を義務付ける省令改正が行われると共に、それらの身体的拘束等の適正化のための措置が講じられていない場合は、基本報酬を減算するルールが新設された。
今まで身体拘束廃止の規定がなかった訪問系サービス、通所系サービス、福祉用具貸与、特定福祉用具販売及び居宅介護支援については、利用者又は他の利用者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束等を行ってはならないこととし、身体的拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の利用者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由を記録することを義務付ける省令改正も同時に行われた。
このように相変わらず、身体拘束廃止は主要な課題となっているわけである。
では実際に介護の場では、どのような身体拘束が行われているのだろう。介護保険制度以前には、車いすに座ったまま立ち上がれなくするシートベルトや車いすテーブルがよく使われていたが、そのような物品は既に介護事業者からは消えていると思う。
つなぎ服も、介護保険制度以後に入職した職員は、その存在さえも知らないだろう。
今現在残っている身体拘束とは、点滴や経験栄養のチューブ等を引き抜くことへの対応として、ミトン手袋を手にはめたり、一時的に手を縛って拘束する行為ではないだろうか。

上記の図のように、身体拘束の例外規定は、生命を害する恐れがある場合などの、「緊急やむを得ず」身体拘束を実施する場合で、3要件の判断に加え、極めて慎重な手続きを踏まなければならないとされている。
ところが一時的であるはずの拘束が、長期間に渡って解けない事例が多い。点滴が病状を好転させる際の一時的なものだとしたらその間だけの拘束は必要だが、看取り介護期に死ぬまで拘束が必要だとしたら、それはもはや一時的とは言えないのではないのか・・・。
そもそもチューブを抜いてしまう行為を行わなくなる方法はあるのだろうか・・・そう考えたときに、本当に点滴や経管栄養が必要なのかという点に注意を向けねばならないことに気が付く。
例えば、僕が総合施設長を務めていた特養では、入所時から胃瘻造設しており、胃ろう部をいじる行為が頻繁に見られた方に対し、日中の活動性を高め、離床して胃ろう部に意識が向かないよう、洗濯物畳みなどを手伝ってもらうようにした。
そのうえで医師に相談し、看護職員が摂食機能訓練を行うこととしたことによって、実施から2月後に全粥・ソフト食が食べられるようになったケースがある。
看取り介護対象者であれば、点滴は百害あって一利なしだ。終末期を過ごしている人が痰にむせこんでいる状態を見て、喀痰吸引こそが安楽支援にとって何より必要だという考えには全く賛同できない。それは完全に間違った考え方である。なぜなら喀痰吸引されている人が一番苦しむのは、痰にむせている時ではなく、喀痰吸引されている時だからである。そこで必要なのは痰が出ないように、不必要な点滴をやめることだ。
終末期の経管栄養は、自然死を阻害して苦しめるだけのものと化すことも念頭に置いて考ええばならない。(参照:自然死を阻害しないために)
身体拘束廃止の問題は、身体に及ぶ危険を排除するという視点のみではなく、人にとって豊かな暮らし、生活の質とは何かという視点から考えなければならない問題である。
そこを取り違えてはならないのである。
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不必要な点滴、鼻腔チューブを推進しミトンしないとそれが継続できない。
挙句の果てには浮腫からの末端のチアノーゼ、壊死
そして亡くなる。死ぬまで吸引に耐えなければならない。見ていて本当に辛いです。
masa
が
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