昨日公開された介護報酬の諮問書をみて、一番驚いたのは訪問介護費のマイナス改定である。

ヘルパーの高齢化と人材不足により、絶滅危惧職業とも言われている訪問介護員を増やすには、給与をはじめとした待遇改善が求められるが、同時に安心して働くためには、訪問介護事業の安定経営が不可欠だ。

よって訪問介護関係者からは、強く基本サービス費の引き上げが求められていた。

前回2021年度の報酬改定では、身体介護生活援助通院等乗降介助のすべての単位が1単位しか引き上げられず、他のサービスと比べても冷遇された感がぬぐえなかった訪問介護費であるが、今回は物価高対応という観点からも、前回のような小幅な引き上げではないだろうという期待もあった。

そうであるにもかかわらず蓋を開けて見れば、全体がプラス改定の中で、訪問介護の基本サービス費は減額されていたのである。
訪問介護費
昨日の第239回社会保障審議会介護給付費分科会、web会議で行われ一般公開もされていたが、複数の委員からこの減額改定に憤りを表す意見が出されていた。

減額の理由を問いただす委員からの質問に対して、国は、「介護報酬はサービスごとにメリハリをつけている」「訪問介護の支出の7割は人件費であるという状況を鑑みて、まず訪問介護員の処遇改善を優先し、一番高い加算率にして処遇改善を最優先にしている。」と繰り返すのみで、訪問介護費が下げられなければならない理由は明確にしなかった。

おそらくは令和5年度介護事業経営実態調査における訪問介護の収支差率が 7.8%(前年比2.0%増)と他のサービスと比較しても高かったことから、もうけ過ぎていると決めつけられたのだろう。

小規模で零細事業所からすれば、収支差率7.8%といっても大した額にはならない。何千万も儲けが出ているわけではないのだ。せいぜいが経営者がやっと人並みの給与を得られる程度だろう。場合によっては、経営者がまともな額の給与を得ず収支差率をプラスに保っている事業所も存在している。

よって訪問介護事業経営者からすれば収支状況を見るのであれば、率で見るのではなく額で見てほしいと言いたいところだ・・・。

しかしそのような意見は全く無視されてしまう・・・。

昨日昼のNHKのニュースでは、「介護報酬の単価が決まったが、人手不足が深刻な訪問介護については、特に人件費に充てられる加算の割合が他のサービスより高く設定された」と報道されており、あたかも訪問介護にたくさんのお金が回っているように伝えられた。そこでは基本サービス費が下がったことには一言も触れられなかった。

このことにより国民の多くは、ヘルパー確保のため訪問介護は優遇されていると勘違いするだろう。

しかし実際にはヘルパーの給与は、全産業平均給与にはるかに及ばない。処遇改善加算の加算率が高く設定されているとしても、加算のベースは収入である。その収入となる基本サービス費が減らされているのだから、大きな処遇改善にはつながらないし、そもそも事業の安定経営が懸念される報酬設定をみて、ヘルパーになろうとする動機づけは低下の一途を辿るだろう。

よって訪問介護というサービス事業も、訪問介護員も絶滅危惧から脱する方向にはなっていないと言い切れる。

国はこれをよしとするのだろうか。訪問介護がなくなっても小規模多機能居宅介護等でサービスの隙間を埋められるとでも思っているのだろうか。それは少し考え違いではないかと思わざるを得ない。

このことについて、西宮市で訪問介護事業所を経営する幸地社長(グローバルウォーク)は次のように述べている。

・「処遇改善が高い加算率で14.5%〜24.5%まで取得できるからって・・・結果、経営は今まで以上に厳しくなるて事やん。人材育成やすでに雇用している人への報酬改善しか見ず、そもそも雇用にかかる先行投資は、これでは出来ん・・・。
・「会社てのは売上があがろうが、賃金が増えようが、利益があって納税して、内部余剰を積んで、初めて成長、規模が大きくなったと言われるもんです。こんなシステムで会社がでかくなる事はない。処遇改善など、いちいち国に言われんでも『やらなアカン』事です、我々経営者は、貰った小遣いを散財する子供ではないし、すでに経営者は労働者から選ばれる立場にある・・・にも関わらず『処遇改善』て言葉で、俺ら信用されてないねんな…て改めて思う中で、サービスの質をあげろ、と言われても…そりゃ無茶苦茶ですわ、と言いたい。

まったくもってその通りである。だがこうした現場の声を国に届けても、無視を決め込んで何も変わっていかないのが我が国の介護行政の実態でもある。

だからといって私たちがあきらめて貝のように口をつぐんだ途端、もっと介護現場の現状は悪い方向に誘導されかねない・・・だから私たちの声は、きちんと届け続ける努力をし続けなければならない。

違うものは違うと言い続け、その一念が小さな針の穴を通ったときに、そこから明るい光が漏れてくることを信じて、正論を捨て去らず、知恵を絞りながら、介護の品質を我が手で上げる努力を続けていくしかない。

そこに我々の支援の手を必要としてくれている人々がいる限り・・・。






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