一昨日、道内滝川市で虐待防止研修講師を務め、昨日自宅に帰ってきた。
我々の介護事業から虐待・不適切サービスをなくしていかない限り、介護事業に闇がつきものとなる。そしてその闇に覆われるのは、我々の子や孫といった身内になるかもしれない・・・いや、もしかしてその闇に絡みとられるのは将来の自分なのかもしれない。
決して他人事ではない問題として虐待防止に取り組んでいかねばならない。
ところでこの問題に絡んでは、昨年末の慌ただしい時期に、介護施設の中で起きた虐待殺人事件の判決が下っていたことに気づいた方も多いだろう。今日はその時思ったことを改めて書き綴ってみようと思う。
2022年9月、東京・北区の特別養護老人ホーム浮間こひつじ園で、夜勤中に入所者の92歳の女性を暴行して殺害した罪に問われた施設の元職員菊池隆被告(51)に対し、12/15東京地方裁判所は懲役17年の判決を下した。
この事件概要については下記のリンク先を参照いただきたい。
(参照:夜勤専任者が指名手配された特養の評判とその教訓)

判決で裁判長は、「安心して生活できるはずの施設で殺害に及んだことは、非常に強く非難されなければならない」として判決理由を述べている。
さらに、「介護職員は利用者の理不尽な言動をある程度は受け止め、感情的になっても自分を抑える心構えが求められる。利用者が安心して生活できるはずの施設で適切に介護する立場にありながら殺害に及んだことは、非常に強く非難されなければならない」と戒めてもいる。
至極当たり前の判断であり、的を射た指摘であろうと思う。「理不尽な言動をある程度は受け止める必要がある」としていることに反発を感じる人も居るかもしれないが、そうした指摘も真摯に受け入れる必要がある。
私たちが向かい合う利用者の中には、認知機能が低下している方もいるし、感情をコントロールできない人も居られる。
私たちは対人援助のプロとして、そうした方々に向かい合い、利用者の方々の感情に巻き込まれない統制された情緒関与の原則(※援助者は自分の感情を自覚し、利用者の感情に引きずられることなく、自分の感情をコントロールして援助する)を貫き、自らの感情をコントロールして冷静に対応する姿勢が求められているということだ。
間違えてはならないことは、暴力や暴言がある利用者に、職員が怒りの感情を持ってはならないという意味ではないということだ。
対人援助のプロといえど感情を持った一人の人間である以上、何らかの理由でサービス利用者に対して怒りの感情を持ってしまうことはあり得ることだ。自然と湧きあがってくる怒りの感情は抑えようがないし、そもそも何かに対して怒るということは人間として極めて正常な反応である・・・そのこと自体は認めてよいのだ。
怒りや悪感情を抱かないようにすることは不可能なのである。人は万能の神ではないのだから・・・。
しかし我々は対人援助の場で、様々な人々に関わる専門家であるのだから、相手の感情に巻き込まれたり、自らの感情のままに利用者をも着込んではならないのだ。よって利用者に対して自分が抱いた感情をストレートにぶつけて良いわけがないのである。
援助すべき対象者に抱いた負の感情が、対人援助という業務に影響を与えては困るわけなのだから、その感情をうまくコントロールしてお客様に失礼がない対応に終始しなければならないのである。
そうであるがゆえに、自分がどのような時に、利用者に対して怒りの感情を覚えるのか、悪感情を抱くのかということを、自分自身が自覚して、日頃からその傾向を知ろうと務めることが求められているのだ。それが「自己覚知」である。それによって我々は自身の感情をコントロールすることが可能になるのだ。
対人援助のプロとして利用者に接するためには、私たちが対人援助・介護サービスを通じて生活の糧を得ているということを強く意識し、利用者は顧客であり、顧客に対するサービスマナー意識は常に欠かせないものであるという意識を持つことだ。
介護事業経営者や管理職は、このことを常日頃から職員に対し教育しておかねばならないのである。
浮間こひつじ園の経営母体である社会福祉法人千葉育美会は、2023年6月16日付で「再発防止のための改善計画のご報告」を公式サイトで公開している。
しかしその内容を読むと、うわっ滑りの形だけの虐待防止策にしかすぎないように思える。顧客対応とか、サービスマナー意識という言葉は皆無であり、改善状況報告とか研修実施・ガイドラインの整備という内容でしかない・・・本当にこれで二度と同じ事件を起こさないと確証が得られるだろうか。
僕はここに書かれている研修内容も含めて、大いに疑問を持たざるを得ないし、今後の懸念はぬぐえないと思う。
それにしても判決を受けた被告・・・満期まで受刑したら出所するのは70歳目前となる。その後の人生も随分生きづらいものとなるだろう。ある意味、事件を起こしたことによって人生が詰んだと言われても仕方ない状態ではないのだろうか。
対人援助の場に関わっている人すべてが、こうした事件の加害者のその後の人生も悲惨なものとなるという教訓を得て、そうしたことを決して起こさないように強く胸に誓ってほしいものである。




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