僕が総合施設長を務めていた社会福祉法人で、通所介護事業を始めたのは介護保険制度施行前年の1999年のことであった。

まだ通所介護という言葉がなかったその時代(※正式名称がデイサービスとされていた)、送迎車の運転業務はデイサービス事業所の介護職員が行うことが当たり前だった。

よってデイサービス職員募集の条件として、要普通自動車免許(送迎運転業務有り)と書くのも当たり前であった。

だから募集に応募をしてくる求職者も、運転業務を含めてデイサービスの仕事であると考え、デイサービスで働きたいけど運転業務は勘弁してほしいなとという要望は聞こえてこなかったし、それも当たり前のことであった。

その背景には、夜勤業務がないデイサービスの仕事は人気があって、求職希望者が多くて、運転は嫌だという我儘を言っていたら採用されないという事情もあったろう・・・。
送迎
しかし介護保険制度に変わると事情は大来変わった。通所介護事業所の数が全国各地で増大し、従業員の確保が最大の課題となり、売り手市場となった求職者の我儘も通りやすくなって、通所介護事業所内での仕事は頑張るけれど、運転業務はしたくないという人が、その希望に応じて採用されるケースも徐々に増えていった。

加えて通所介護サービス自体の競争激化という状況が生まれた。介護保険制度開始直後は、通所介護事業所を開設するだけで勝手に地域の要介護者が利用してくれるような状況があったが、事業所数が月ごとに増えるような状況で、利用者の確保競争が激化し、多様な利用者ニーズに応えなければ事業経営がままならなくなった。

その為、指定事業所が定めたサービス提供時間に合わせて通うことができる利用者を選択していては利用者確保が難しくなり、利用者個々の事情に合わせて、サービス提供時間内で様々な時間区分のサービス利用を受ける通所介護事業所が増えた。

そうなると当然、サービス提供時間で実際に利用者がサービスを受けている時間帯であっても、一部の利用者の送迎のために運転業務が必要とされるようになる。すると運業務担当の介護職員がその時間帯に配置から外れてしまうことになってしまえば介護業務が廻らなくなり、配置基準違反となるような事態も懸念されるようになった。

その為、介護職員が利用者送迎業務に携わらなくてよいように、運転専門の職員を雇う事業所が増えていった。

すると運転専門員は、送迎業務を行っていない時間で、併設施設の営繕業務(屋内外の設備のメンテナンス業務など)や助手的業務(※例えば僕が居た法人では運転手が、特養利用者の包布・シーツ交換なども行っていた)に就くことができるなど、副次的効果も生ずるようになった。

そうした運転専門職員は、一度現役をリタイヤした高齢者を雇用して確保する事業所も少なくない。

しかし高齢者を運転業務に従事させることにはリスクも伴う。例えば、「高齢者を送迎ドライバーとして雇用するリスク」で論評した事故は、ドライバーの認知機能低下という状態が引き起こした事故である可能性が高い。

このような事故を防ぐためには、安易に高齢者をドライバーとして雇用しない体制作りが必要であるが、社会全体の人材不足は、運転業務を担う人材募集にも応募が少ないという問題がある。

そうした背景もあり、命に係わる重要な運転業務の安全性を担保するため、運転業務をタクシー事業者等の外部事業者に委託するところも増えている。

この場合、委託費用は送迎加算などで賄うケースが多いだろうが、地域によっては受託事業者がそれでは採算が取れないということで、通所介護事業者が送迎加算に上積みして支出しているケースもある。

そうした人材不足への対応とコスト削減の視点から、11/27の介護給付費分科会では、通所介護などの現行ルールの明確化を図るとして、送迎を外部へ委託している場合も含め、他の事業所の利用者も一緒に乗せる運用が可能なことを明示する案が示された。

それによると他事業所の利用者が送迎車に同乗することを明示的に可能とするケースとして、次の2点が具体的に示されている。
・他事業所の職員が自事業所と雇用契約を結び、自事業所の職員として送迎を行う場合
・委託契約(共同での委託を含む)に基づき送迎を委託している場合


さたに併設・隣接の障害福祉事業所が介護事業所と雇用契約や委託契約を結ぶ場合は、障害者が同乗できることを明確化するともしている。

通所サービスの複数事業所の共同送迎は今までも禁止する法令は存在していないが、認めるルールもなかったことから、多くの事業所は共同送迎を検討してこなかったという事実がある。共同送迎は可能なのだということが広く通知されることによって、他事業所と連携協力して利用者送迎を行うというケースも増えてくることだろう・・・この考え方は通所介護の議論の中で示されたが、当然通所リハビリにも適用されるだろうし、ショートステイの送迎にも認められるだろう。

社会全体の労働力が不足する我が国の状況を考えると、それは必要不可欠な方針である。介護事業関係者はそれを大いに歓迎して、最大限のルール利用を図りたいものである。

他事業所との共同送迎協定を結ぶ過程で、他の部分での協力体制も築ける可能性もあるので、底も大いに期待したいと思う。






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