このところ連日、介護施設職員の利用者に対する暴力報道が繰り返されている。
滋賀県野洲市や大阪府枚方市では、複数の利用者に暴力を加えてけがをさせた介護職員が、それぞれ逮捕されている。
こんなにも次々と事件が続くと、介護施設はあたかも必要悪で、そこに一旦入所してしまったら、どのような扱いを受けても不思議ではなく、虐待を受けなければ幸運であるなんて言う偏見が広がりかねない。
虐待や不適切サービスとは無縁の、多くの介護施設関係者は、昨今の状況に大いに心を痛めている。なんとしてでもこうした状況をなくしていかねばならない。
だからこそ人材不足だからといって、闇雲に募集に応募してきた人間を採用しないでほしい。特に何種類もの介護事業者を渡り歩いている人は、それなりに定着できない理由があるのだから、採用はより慎重にすべきだ。
渡り鳥のように所属事業者を変える人の中には、就職先で利用者に腹を立てて、不適切な言動が問題になった過去を持つ人間が少なからず混じっている。そういう人は矯正不能と考えた方が良いのである。今後注意をし続ければ、そういう間違いは2度と起こさないだろうなどという、根拠のない期待が経営リスクに直結することを理解しなければならない。
ところで過去に介護事業者で起こった事件の原因を探っていくと、入所者の行動にイラついて腹を立てて暴力に及んでいるケースが少なくないことがわかる。特に認知症の人の行動にイライラして思わず手を挙げてしまうという虐待事案が介護事業者を舞台に繰り返されている。
しかし認知症の人に何度も同じ注意をしても、行動変容できないのは当たり前のことだ。怒るという感情はおいそれとコントロールできるものではなく、怒らないという状態に自分を持っていくのも極めて難しい。(※アンガーマネジメントも、怒りを鎮める技術ではなく、怒りをマネジメントして、怒りのありようを知ることで怒りという感情に流されないようにする技術でしかない)
認知症の人の行動にいちいち腹を立てても何の意味もなく、腹を立てるだけ無駄であるし、そのことで手荒な対応を行えば、認知症の人の行動はさらに理解不能なほどエスカレートして、介護従事者の仕事は増えるだけの結果にしかなならない。・・・認知症の人の行動に腹を立てるほど、無駄で非効率的な行動は他にないのである。
このことを全職員が把握・理解することが求められるのである。

上の図は、『認知症の理解』などをテーマに行う僕の講演のスライドの一部である。
アルツハイマー型認知症の人は、脳の後ろ側にある細長い器官『海馬』の周辺に血流障害が生じるという特徴がある。その為、アルツハイマー型認知症の初期から海馬が機能不全に陥ることがわかっている。
この『海馬』とは、見たり聞いたりした情報をいったんためて、記憶として脳に残す器官である。この器官が機能不全に陥るということは、新しい情報が記憶にならないということだ。
つまり、認知症の人に行動・心理症状(BPSD)が表れて、その行動が傍から見て危険であるからといって注意しても、認知症の人自身は、自分の行動には理由があるし、決して危険な行動をとっていると思っていないので、その行動をなじられる意味が分からない。
それだけでなく、自分に対して第3者が怒って注意しているということ自体が、記憶に留まらないのである。
つまり何度同じ注意をしても、云うことをきいてくれないと介護従事者が思っていたとしても、認知症の人は、注意されるその瞬間から記憶は脳にたまらないため、注意されたという経験そのものが消えてなくなるのである。
介護従事者が同じ注意を百回その場で行ったとしても、認知症の人にとっては、1回目の注意も、100回目の注意も、同じく初体験である。それが認知症という症状の特徴なので、そのことにイラついても始まらないのだ。
行動・心理症状が目立つ人に対しては、よりその人の目線に立って、何をしたいのかを探ると共に、笑顔で目を見て、丁寧な言葉で対応することが重要になる。(参照:カンフォータブルケアに注目が集まりましたね)
こうした対応を繰り返していくと、その介護従事者の対応によって認知症の人の行動が落ち着くスピードが速くなり、行動・心理症状の頻度が減ることがわかるようになる。
人の顔も名前も記憶できない人が、なぜ特定の介護従事者の対応に反応するのだろう。それは全景の図に関係がある。
アルツハイマー型認知症の人は、海馬の機能不全が起こるが、小脳の機能は正常に働くことが多いため、ここに残る記憶は比較的晩期まで残るのだ。するとここには手続き記憶が残ることがわかってるが、同時に、『感情の記憶』も小脳に残ることがわかっているのだ。
つまりこの人の顔も名前も知らないけど、この人の声を聴いたら何となく落ち着くという感情の記憶によって、いつも丁寧で優しく、笑顔で対応してくれる人は、認知症の人にとって信頼できる誰かであると認識されているのだ。
だからそうした信頼できる介護従事者の対応で、行動・心理症状は軽減されるのである。
腹を立てても解決しない問題は、こうして笑顔で優しい対応によって解決に結びつくのだ。そう慣れば仕事も減って、楽に業務をこなせることに繋がっていくのだ。
認知症ケアの達人と呼ばれている人たちは、このように楽ちんな状態を常に創り上げて、成果を挙げていることを理解せねばならない。・・・どちらが良いのかは一目瞭然の世界である。

CBブレイン「快筆乱麻masaが読み解く介護の今」、今月号の連載は本日アップされています。経済対策として実施予定の、介護職員らの給与引き上げについてどう考えるべきかを論じています。こちら
参照ください。




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は
「何度(介護に)失敗しても同じ事を繰り返す学習能力の無い馬鹿」
と自分のことをいってるのと同意だと思います。
masa
が
しました