介護事業の生産性向上と人材確保に関連して、介護保険施設の配置基準を現行の3:14:1に緩和しようとするモデル事業が、三重県津市の介護老人保健施設で実施されている。

このモデル事業は、ICTと介護助手を活用して、配置人員を従前より少なくて済むように実験されているとのことであるが、それは非常にうまくいっていると言われている。

しかし4:1の配置基準にしたときに、実際に何が起きるかということは、「看護・介護職員配置基準緩和の危うさ」で指摘したとおり、日中ぎりぎりの人数で業務を無理に回さねばならないだけではなく、有給休暇が全く取れない状況に陥ることは必然である。

そうであるにもかかわらずモデル事業がうまくいっていると評価されている背景には、それなりの理由がある。

このモデル事業は、「ICTや介護助手の活用によって配置人員が削減できるに違いない」と想定されて行われているという意味だ。その旗振り役が法人トップなのだから、従業員は忖度するしか道はない。よって有給休暇もまともに取らずにがむしゃらに、『できるという結果ありき』で、従業員の方が頑張っているに過ぎないのである。・・・24時間・365日そのような頑張りが続くわけがないのである。

いやいや決してそうではなく、モデル事業では実にうまいこと介護助手を活用して、介護職員の業務負担が軽減されているという人も居るが、それも幻想だ。
介護助手
介護助手として想定されているのは、一旦現役をリタイヤした高齢者の方々である。それらの方が、介護業務と切り分けられる業務を行って、その分介護職員の仕事が減ると言われているが、実際に介護業務と切り分けられると考えられている業務とは、下記のような業務である。

※介護業務と切り分けられると考えられる業務例
食事(おやつ)準備・配膳下膳・洗濯・掃除・ごみ捨て・寝具交換・誘導介助

これらの業務は、特養では20年以上も前から介護業務と切り分けられていた。過去には寮母と呼ばれていた介護職員が、洗濯も掃除もゴミ捨ても行っていたが、掃除と洗濯は30年以上前に介護職員の業務とは切り離して、清掃員・洗濯専門員という職種を雇用している特養がほとんどだろう。

食事の準備や配膳下膳は、厨房業務(調理)を業者委託する施設が増えたことにより、委託事業者の職員(調理員)によって行われているところがほとんどだろう。特に特養の入所要件の厳格化により、要介護3以上の人が入所対象になって以後、食事摂取が自力でできない利用者が増えており、介護職員が食事の準備や配膳下膳なんてしていては時間内に食事介助が終わらないため、そんな業務はとっくに切り分けている。

寝具シーツ交換等も、介護職員は関わっていない施設が多くなった。僕がトップを務めていた社福では、通所介護の運転業務を行っている担当者が、運転業務のない時間にそれらの交換業務に就いていた。

このように特養では、何十年も前から間接業務を介護業務から切り離して、介護職員以外が行っていたのである。しかし老健は、それに乗り遅れていた節がある。それは老健の介護業務は、看護職員が中心になって、介護職員に指示・命令して行っていたという傾向が強かったために、介護職員を看護職員の助手のように使っている傾向があり、介護職員の業務を補完する助手という発想に欠けていたことが理由であろうと想像する。

しかしここにきて、特養のように介護の業務の一部を、介護職員の助手に手渡して業務を回すということがやっと行われるようになって、それが新鮮で目新しく映っているだけだろう。

しかし介護助手が、あたり前になっても、主介護業務がなくなるわけではなく、実際に助手導入で介護職員の配置を減らした場合には、仕事ができる介護職員の業務負担が増大して、バーンアウトにつながるという事態が頻発する。これは特養で実証されていることだ。

しかも高齢者で介護助手を担う人の、就業年数は短期的になることが多く、人的資源も決して豊富ではない。介護助手を便利遣いした数年後には、助手不足問題が介護施設の新しい人材問題になってしまうのが落ちだろう・・・。

まったく馬鹿馬鹿しい議論であり、馬鹿馬鹿しいモデル事業であるというしかない・・・。






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