要介護者にとって、自宅を離れて住み替えの居所として選ぶ介護施設は、終の棲家ともいえる場所である。
そこには自分の尊厳を護り、暮らしを支えてくれる信頼できる介護支援者がいるはずである。
利用者はそう信じて、不自由になった自らの身を介護施設に委ねるのである。
私たち介護関係者は、そうした利用者の信頼に応えるために、対人援助に必要な知識と技術を常日頃から磨く義務がある。介護という職業で生活の糧を得ている以上、そう考えるのは極めて当然のことである。
そうした考え方や覚悟を持つことができず、努力をしない人は人の暮らしに関わる職業に就いてはならない。
なぜなら対人援助に向かない人が無理にその職業を続けても、自分にとっても、サービスを受ける利用者にとっても、双方ともに不幸な結果にしかつながらないからだ・・・。そんな事件が巷では、繰り返し短い期間に起こっているという哀しい現実が存在する。
「安心でぬくもりのある家庭的雰囲気の中でサービスを提供します」・「彩り豊かで実りのある暮らしを」・・・介護事業者が掲げる理念としてはよくあるフレーズであるが、これは今年5月と今月6日に、利用者に対する暴行事件を起こして、2名の逮捕者を出した特養のパンフレットに掲載されている言葉である。
事件を繰り返し起こしている施設のこうした理念は、ただただ空しい・・・。今となっては、その文言をパンフレットに掲載していること自体が恥ずかしいことでしかなくなる。
その事件を振り返ってみよう。
社会福祉法人・湖星会が経営する札幌市中央区の特別養護老人ホーム、「ラスール苗穂リバーサイド」で、10/5:午前0時半ころ、介護職員の女が入所している女性(87)にけがをさせたとして逮捕された。
容疑者は施設の共用スペースで、被害女性を床に引き倒して右足の骨を折る重傷を負わせている。犯行動機については、「夜中に言うことを聞かず歩き回るのでイライラしてやった」と容疑を認めているとのことだ。

しかしこの特養で、職員が介護者に暴行して逮捕された事件はこれだけではない。今年5月にも男の介護職員が、入所している男性の腹を蹴ってけがをさせる事件を起こしているのである。
利用者を引き倒して床を引きずる行為、そして利用者の腹を蹴るという行為・・・どちらもはずみであるとも言えないし、そんなつもりはなかったとも言えない、言い訳のきかない暴力そのものである。
このように利用者の身体に直接暴行を働くという卑劣な暴力行為が、なぜ短期間に繰り返されるのだろう。
どんなに採用条件を厳しくして、職員教育を熱心に行っても、その網をすり抜けて利用者に対し不適切行為に及ぶ人間を完全に排除できない。そのため介護事業経営者にとって、サイコパスのような人間が混じって、何か重大な問題を引き起こさないかという懸念は尽きない。
そういう意味では、ある日急に上司や同僚の目の届かない場所で不適切行為に及ぶ職員がいたことが発覚する可能性は、どの職場にもあると言えるだろう。・・・しかし一旦、そうした不適切行為が発覚した場合は、早急にその原因を探り、同じ行為が繰り返されないように徹底的に改善措置をとるのが経営者や管理職の務めである。
しかるにこの特養では、半年にも満たない極めて短期間に重大な虐待行為が繰り返されているという事実がある。これは加害者の責任にとどまらず、管理責任が厳しく問われなければならないケースである。
最初の事件が起きた後、徹底的に原因追求と再発防止措置が取られていたのかという再検証が必要だ。
アンガーマネジメントの基盤となる自己覚知の教育は行われていたのだろうか。利用者を単なるユーザーとみなさず、顧客であるという意識をもって、サービスマナーを護る意識教育がされていたのかが問われてくる。
本来なら、こんな短期間に暴力事件が起きる特養など廃止すべきであるが、利用者がいるという問題がある。その方々に不利益が生じないように、経営法人は襟を正して健全なる施設経営への再スタートを切らねばならない。虐待の芽を摘むために、徹底的にうみを出して改善しなければならない。




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