岐阜市の養護老人ホーム「寿松苑」(岐阜市社会福祉事業団)で、出納責任者であった元職員の女が利用者の預金を横領していたという事件が発覚した。
元職員は入所者が日常生活で使用するために金庫で管理していた預かり金を所長決裁を経ずに持ち出したり、預かっていた通帳から現金を引き出したりして、33回にわたり不正に出金していたという。1人あたりの被害額は最高で95万円。
元職員は2015年度から同苑の出納責任者を務めており、所長が交代した2021年度から、異動する2022年3月末まで預かり金の管理をほぼ一任されていたという。元職員の退職後の今年5月、入所者の親族から使途不明の出金があると同苑に申し出があり、調査していた。

岐阜市社会福祉事業団は22日に記者会見を開き、この元職員を警察に刑事告発し受理されたということを明らかにしたうえで、入所者には全額返金することを表明している。
それは当然のこととして、この事業団の預かり金管理はあまりにも杜撰すぎる。
養護老人ホームは、特養利用者よりADLが高い方で、認知症ではない人が数多く入居している施設である。しかし多額の預金を自己管理するのは紛失等の問題も懸念されることから、ホームに預けて管理してもらう人は少なくない。
その為、預かり金管理に間違いがないように、旧厚生省の時代に、「預り金管理規定」のひな型が示され、それを参考にして厳重に不正の入り込む余地がないように、預かり金管理を行うように指導・通知されていた。
今回の盗難の疑いがある事案は、そのシステムが全く機能していなかったという問題で、厳しく管理責任が問われなければならない。
そもそも預かり金管理を不正が入り込まないようにするシステムなんて、さほど難しいシステムではない。要は特定の従業員一人に管理業務を担わせずに、相互監視のシステムを構築すればよいだけの話である。
仮に信頼が置ける人物で、その人に任せておけば大丈夫であろうという人物であったとしても、その人物だけに権限や責任が集中してしまえば、人には「魔が差す」という状態があり得るわけで、何千万円にも上る預り金を自分一人の考えで処理できるとすれば、その一部を懐に入れてしまえと考えないとは言い切れないのだ。
そうならないように複数の従業員が、預貯金管理、預金引き落とし業務に関り、お互いの業務に齟齬が生じていないかを確認し合うシステムは不可欠である。
僕が総合施設長を務めていた社福でも、措置費時代から僕が退職するまでずっと、100人の特養利用者の預かり金を管理していたが、一度も間違いを犯したことはなかった。システムがきちんと機能していたからである。
本件は、元職員が所長決済を得て預金を下ろすというルールを無視したことが原因と報道されているが、そのような行為が長期間発覚しなかったことがより大きな問題だと思う。
預り金管理規定では、毎月利用者預金の収支状況を確認するための、預金元帳や試算表の作成が求められている。
つまり月締めで預り金元帳を作成し、預金を預かっている利用者のそれぞれの預金通帳について、当該月にいくらの金額が、何のために引き出されているかを確認することが求められているのだ。
この際に預金元帳・試算表を作成する職員と、預金を金融機関から引き出す職員を別にしていることにより、決済を受けずに勝手に預金を引き出した行為は、元帳・試算表の作成段階で必ず明らかになるわけである。
岐阜市社会福祉事業団では、こんな簡単なシステムの運用さえできていなかったという意味ではないか。
それは管理責任のあるすべての人物が、責任をとらねばならないという問題でもある。




北海道介護福祉道場あかい花から介護・福祉情報掲示板(表板)に入ってください。
・「介護の誇り」は、こちらから送料無料で購入できます。
・masaの看取り介護指南本「看取りを支える介護実践〜命と向き合う現場から」(2019年1/20刊行)はこちらから送料無料で購入できます。

新刊「きみの介護に根拠はあるか〜本物の科学的介護とは」(2021年10月10日発売)をAmazonから取り寄せる方は、こちらをクリックしてください。