医学は日進月歩であると言っても、こと認知症に対する医学は、なかなかその治療や予防に手が届く方向に進んでいない。

例えば認知症治療に使える新薬が約20年ぶりに承認を受けたと言っても、それは認知症を根治させたり、予防できたりする効果がある薬ではない。(参照:レカネマブ承認〜過度な期待は禁物

認知症に対して、現在医学の手はいまだに届いていないだけではなく、手が届く見込みもないと言うのが、今の現実である。

現在65歳以上で7人に一人が認知症であると言われており、2025年にはその数が5人に一人まで増えると予測されている。しかし軽度認知障害MCI)の人が増えている現状を鑑みると、そこに何か有効な対策が取られないと、認知症になる人の割合も数も予測より増えていくことになる。

それによって社会全体の介護負担が増えたり、認知症の人が事故に遭うなどする件数も爆発的に増えかねない。介護離職やヤングケアラーの問題も、認知症の人が増えるに従いより重たい問題となっていくだろう。

しかしどんなに認知症予防のための様々な方法が啓蒙されても、根本的な予防薬や治療薬がない限り、人類は認知症から解放されないのも事実だ。そして根本的な予防・治療薬について、少なくとも僕が生きている間には開発されないだろうと思う。

だからこそ生活習慣の改善など、日常生活の中での認知症の予防と、認知症になった人に対する対応の仕方が重要視されているのである。

その為には、認知症とは何かという基本を知り、誰しもが認知症になり得ることを理解したうえで、認知症の人やその行動を肯定的に捉える必要がある。いわゆる受容的な態度が求められるのである。

だがそれは、「言うは易く行うは難し」でもある。繰り返される行動や訴え・・・そのたびに同じ対応を繰り返さなければならないことに、心身が疲れ切ってしまう人も多い。

だが支援者にとっては同じ行動や訴えであったとしても、認知症の人にとって、それは今しなければならない行動であり、今訴えなければならない心の叫びなのである。それに対して根気よく向かい合ってくれる誰かを、認知症の人は探し続けているのである。

理解できない行動をとる人を奇異な目で目るのではなく、そういう行動をとらざるを得ない認知症の人という理解のもとに、その人がなぜそうした行動をとるのかを受容的に考え、その方が真に望む方向に寄り添うということが求められるのだ。

そうした態度に終始できる秘訣があるとすれば、突き詰めて言えば、それは人間愛を寄せて関わるということに尽きる。だが愛を寄せるエビデンスなんて存在しない。それは科学的思考ではなく、人としてごく当たり前の優しさや思いやりを忘れないということなのである。

どちらにしても認知症の人に今、確実に届くのは医療ではなく介護の手なのである。

ところで北海道のでは先日、下記のような報道がネット等をにぎわせた。
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7日午後、北海道帯広市のアパート玄関前に侵入したとして、80歳の元住人の男が逮捕されました。邸宅侵入の疑いで逮捕されたのは、住所は自称、帯広市に住む80歳の無職の男です。この男は7日午後2時ごろ、自称、自宅近くのアパート2階の部屋の玄関前の踊り場に、正当な理由なく侵入した疑いが持たれています。

警察によりますと、目撃した人から「玄関のドアを叩いてる人がいる」という通報を受け、警察官が駆け付けると、男が現場にいたため、調べをすすめ、その場で逮捕しました。80歳の無職の男は、かつて現場のアパートに住んでいたことがあり、取り調べに対しては「自分の家に入ろうとした」などと話しているということです。
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この行動は認知症の症状であることは明らか。見当識の低下による行動を、あたかも社会悪であるかのように報道する意味が分からない。

おそらく大事件が起きた翌日なら、決して取り上げられなかったニュース。報道すべき事柄に事欠いて埋め込んだニュースと思われるが、それにしても見識の低い報道記事である。日本のマスコミは、マスゴミでしかないことがよくわかる記事内容だ。

認知症の人や軽度認知障害の人に対して、もっと温かいまなざしが向けられる社会は実現しないのだろうか・・・。そうした社会の実現を目指して、9/23午後から「テクノプラザかつしか」で行う講演では、認知症の人に対しては、専門知識の前に、周囲の温かい愛情・理解的態度が必要であることを伝えたい。(※下記のポスター画像を参照ください
葛飾認知症研修ポスター
当日は、「記憶を失っても感情は失わないという証明」という記事で紹介した、認知症になり特養に入所した妻と、妻が自分のことを忘れてしまうと嘆く夫のエピソードも紹介する。

どなたでも申し込みなしに無料で参加できるので、是非当日は葛飾までお越しいただきたい。

実は今回のこの講演に、僕は別な思い入れがある・・・幼馴染で、幼稚園から中学を卒業するまで同じ学校に通っていた友人女性が、この講演を聴きに来てくれる予定になっていた。

彼女は都内の老健施設で看護師を勤めており、過去にも僕が都内で行う講演を何度か聴きに来てくれていたが、コロナ禍以後逢えない日が続いていたので、今回は4年ぶりに逢えると楽しみにしていた。

そのため講演が終わったら懇親会で呑みましょうという話を電話でしたのが先月の18日であった。しかしその日、彼女は夜勤で出勤後、職場で脳出血を起こし倒れてしまった。

救急搬送されて一命はとりとめたものの、意識不明の状態で、いつ何があってもおかしくない状態と聞き及んでいたが、残念ながら今週月曜日・9月18日の夜に帰らぬ人となってしまった。とても残念である。合掌。

だからこそ彼女が聴きに来てくれるはずであった今回の葛飾講演は、彼女のためにも魂を込めて、本物の認知症介護実務を伝えてきたいと気合が入る。

初七日も済んでいない彼女の魂も、天に召される前に僕の話を聴きに会場を訪れてくれていると思いながら話をしよう。

それでは葛飾講演に来てくださる皆さま、そして天に召された春美ちゃん、当日の会場で愛ましょう。






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