我が国では生産年齢人口が減少し続け、その改善が見込まれない中で、要介護高齢者は2042年くらいまで増え続けるとされている。
介護事業経営を考えるうえで、このことは大いなる悩みである。顧客が今後20年間は増え続けるにも関わらず、顧客対応するための人的資源の確保が困難となりかねないからだ。
ICTをいくら活用しようと、AI搭載ロボットが今以上に進化しようと、人の手をかけて他者の身体介護を行うという行為に、それらのテクノロジーが代替できる部分は限りがあると思える。
そのような中で世間は介護保険制度施行後初めてインフレに振れている。そうした傾向を受けて、今年の春闘では価格転嫁できる営利企業が軒並み大幅な賃上げを行った。
社会的に物価高であることで、それに慣れてしまった庶民は、物の価格が上がることにあきらめの気持ちを持つのみで、それに反発する気力を失っている。その為、商品を売る企業は人件費上昇分を、商品価格を上げることで賄うことが可能になっているのである。
しかし人件費上昇分を価格転嫁できず、3年間価格が変わらない公費運営の介護事業者は、そういうわけにはいかず、インフレに対応した賃上げが不可能である。その為、せっかく縮まりつつあった介護事業者の平均賃金と、全産業平均賃金はその差が広がっている。
このままでは介護事業に人が張り付かなくなりかねない。だからこそ次期介護報酬改定では、物価高・人材不足に対応した思い切ったプラス改定を望む声が多いのである。
財源はどうするという声が聴こえてきそうだが、インフレで企業収益も上がっているのだから、国の税収も増加が期待できる。インフレ対応の財源措置という考え方があって当然ではないのだろうか。
それと共に少子高齢化は止まっていないのだから、日本人だけで介護人材を確保する戦略は成り立たないことはわかりきっている。
外国人介護人材の活用は必然である。しかし外国人介護人材は、果たして介護人材不足を補うほど日本の介護事業者に張り付くことができるのだろうか・・・。
例えば外国人介護人材の就業バリアとなっている規制ルールは、今後どうなるだろう。
特定技能の外国人にも訪問系サービスへの従事を認めていない現行規制や、設立後3年を経過している施設・事業所のみを技能実習生の受け入れ対象としている規制、さらに技能実習生などが就労開始から6ヵ月経たないと人員配置基準上の職員として算定されないルールについては、撤廃の方向で検討されることは間違いないだろう。
それはかなりの時間がかかるとしても実現されていくと思われる。だからと言ってそれで介護事業者の人材不足が解決するかと言えば、それは違うと言いたい。
なぜなら介護職員に占める外国人材数はわずか2.1%に過ぎないからである。しかも日本政府が今後、量的・人的に受け入れの総量を増やすという議論はほとんどされていない。このままなら外国人介護人材は、今いる人の数が定量となって経過するだけの可能性が高い。
今後劇的な政策転換が行われ、「移民政策」の議論がない限り、介護分野での外国人材に対する数的な面での過度な期待はできないのである。
そうであれば仮に、特定技能の外国人にも訪問系サービスへの従事を認めて何の意味があるというのだろう・・・それは今いる外国人介護人材の一部を、施設サービス従事者から訪問サービス従事者に振り分けるだけに過ぎず、施設サービスはそれによって現在以上に人材不足が深刻化するだろう。
技能実習制度は、新たな制度に替わることが決まっているが、それは技能実習生の職場変更を容易にする制度でもある。すると新ルールを利用して、技能実習生は都会志向が増えるだろう。地方の市町村や、都市周辺地域からは技能実習生が消えていくかもしれない。
だからこそ法人内に人材確保・人材育成・人材定着システムをきちんと構築していかねばならない。人が張り付き長く務める環境を創り上げることが事業戦略として最も重要なこととなるのだ。
介護の生産性向上というが、生産性を向上させる一番の要素は、熟練した人によって適切な介護サービスが行われることで、時間や手間が最少化することではないかと思う。・・・それ以外の生産性向上策は、そのひずみを利用者の我慢・不利益と引き換えに勝ち取るしかないのではないか・・・。
それは社会福祉事業といてあってよいことなのだろうか。介護事業者として持つべき矜持を失わない事業経営が必要ではないのだろうか。
明日の午前中は、東北ブロック老人福祉施設協議会に向けて、「持続可能な法人・事業所の構築に向けて 〜人を育てられる人材を育成するための組織作りを考える〜」という講演をオンライン録画する予定だ。
そこでは今日のブログ記事に書いたことを具体化する方法論を伝える予定だ。
録画された講演は、9月26日(火)〜10月31日(火)の予定で、会員の皆様に向けてオンデマンド配信されるそうなので、是非そちらを参照いただきたい。
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